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長谷川政美『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』
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2024/06/02 (Sun) 08:05:15
雑記帳 2024年06月01日
長谷川政美『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』
https://sicambre.seesaa.net/article/202406article_1.html
https://www.amazon.co.jp/%E9%80%B2%E5%8C%96%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%80%81%E8%BA%AB%E8%BF%91%E3%81%AA%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E3%81%9F%E3%81%A9%E3%82%8B-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D-%E6%94%BF%E7%BE%8E/dp/4860647394
ベレ出版より2023年12月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は、イヌやネコから昆虫や植物まで、身近な生物の起源を解説しており、以下、とくに興味深い見解を備忘録として取り上げます。身近な生物の代表格とも言えるイヌについては、近年の研究(関連記事)を踏まえて、アジア東部起源と推測されています。イヌはアジア東部にいたハイイロオオカミの集団から出現したのだろう、というわけです。イヌはヒトにとって代表的な家畜ですが、他の家畜との大きな違いとして、農耕開始のずっと前から家畜化されていたことが挙げられます。
イヌとともにヒトにとって代表的な身近な生物であるネコ(イエネコ)の家畜化は、イヌ以外の家畜と同様に、農耕開始以降と推測されており、その起源地は世界で最初に農耕が始まった肥沃な三日月地帯と考えられています。ネコは8500年前頃以前には肥沃な三日月地帯でしつ見つかりませんが、それ以降はユーラシアの広範な地域で確認されており、2800年前頃以降にはアフリカでも広く見られます。ネコは当初、ネズミを捕獲することでヒトに貢献したようです。ネコはリビアヤマネコから家畜化され、本書では、亜種間での交配は可能であるものの、ネコのゲノムにリビアヤマネコ以外の亜種が寄与している痕跡はあまり認められない、と指摘されており、じっさい、イエネコとヨーロッパヤマネコとの間の遺伝的混合は限定的だった、と推測されています(関連記事)。アジア東部では、新石器時代にベンガルヤマネコの家畜化も試みられたようですが、すぐにイエネコに置換されました。
ウマは、イヌやネコほどヒトにとって身近な生物とは言えないでしょうが、完新世の人類史に大きな影響を及ぼしてきたことは否定できません。ウマ科で家畜化されたのはウマとロバだけで、日本では飛鳥時時代に朝鮮半島からもたらされたこともあったものの、結局は定着しませんでした。その要因として、アフリカの乾燥地帯で進化したアフリカノロバの子孫であるロバが、湿度の高い日本の気候に適さなかった可能性や、ウマやウシと違ってロバは耕作に仕えなかったことも指摘されています。ウマの家畜化の最古となる証拠は現在のカザフスタン北部で発見されていますが、現在のウマにつながる系統の起源地はユーラシア西部と推測されています(関連記事)。
クマは、日本人にとっては比較的身近な生物と言えるかもしれません。ただ、ヒトの被害など、否定的な報道が多いことも否定できませんが。現在、ヒグマは広く分布していますが、かつて森林に覆われていた頃のアフリカ北部にもアトラスヒグマが存在しており、乾燥化とヒトによる森林破壊やローマ帝国での見世物で殺されるなどして衰退し、1870年頃に絶滅しました。ヒグマとは別種とされるホッキョクグマは、ヒグマの中ではアラスカ南東部のABC諸島に生息するシトカヒグマと近縁で、最近までの交雑が示唆されています。ヨーロッパでは、後期更新世に生息していたクマのうち、ホラアナグマが絶滅し、ヒグマが生き残りましたが、その一因として、ヒグマはホラアナグマより冬眠用の洞窟選択が柔軟だったからではないか、と推測されています。また、ホラアナグマは絶滅しましたが、現生のヒグマのゲノムに0.9~2.4%ほど寄与したことも示されています(関連記事)。
コウモリは小型哺乳類としてはずば抜けて長寿で、その一因としては、哺乳類として唯一自力で飛行できることと関係しているようです。これは自力で飛行できる鳥類が長寿であることと関連しており、飛行により捕食者から逃れやすいことがあるようです。小型コウモリは鳥類よりもさらに長寿で、それには冬眠も関係しているかもしれないものの、小型コウモリがおおむね夜行性であることも大きいようです。夜間行動が捕食圧を弱めている、というわけです。ただ、小型コウモリでも日本人には馴染み深いアブラコウモリは短命です。コウモリは一般的に大規模な集団を形成し、寿命が長いことから、特異なウイルス叢を共生させているのではないか、と考えられています。
スズメは日本人にとってひじょうに馴染み深い生物で、日本に限らずユーラシア圏に広く分布しています。スズメ目ひひじょうに多様で、現生人類鳥類は約1万種とされていますが、その半分以上の約6200種に分類されており、カラスも含まれます。なお、渡り鳥が日本でも比較的身近な生物であることから、鳥類にとって海は障壁ではないようにも思われますが、じっさいには海が鳥類の移動の障壁になっていることは多く、鳥類もたいていはなるべく狭い海峡を渡ろうとしており、それは、多くの鳥類が上昇気流の使用によりエネルギー消費を抑えていて、陸地と比較して海では上昇気流がないからです。
樹木が垂直に伸びるには強固な幹が必要で、リグニンがその基盤になっており、リグニンは光合成によって生成された糖から二次的に作られる三次元網目構造の巨大分子で、木質を形成します。植物がリグニンを合成するようになったのはシルル紀(4億4400万~4億1900万年前頃)の後期で、デボン紀(4億1900万~3億5900万年前頃)には、巨木の森が出現しました。当時、リグニンを分解できる生物が存在しなかったので、倒木は分解されず、そのまま地中に埋没して石炭になりました。植物は光合成により二酸化炭素を消費して酸素を放出し、動物や菌類は植物を分解する過程で酸素を消費し、二酸化炭素を放出しますが、当時はこの分解過程が作用しないので、大気中の酸素濃度が上昇し続け(現在の21%に対して当時は30%)、翅を広げると70cm以上になるトンボ(メガネウラ)も出現しました。この時期、二酸化炭素が減り、酸素が増えることで、寒冷化が進みました。
デボン紀と石炭紀を経てペルム紀になると、新たに出現したハラタケ綱からリグニンを分解できる分類群が出現し、木の分解が進み、物質循環が起きるようになります。この結果、酸素濃度は減少し始め、三畳紀(2億5200万~2億100万年前頃)には15%、ジュラ紀(2億100万~1億4500万年前頃)には12%にまで減少します。そのため、30%と高い酸素濃度に適応していた、哺乳類の祖先である単弓類はペルム紀末以降に衰退し、代わって恐竜が繁栄します。恐竜は気嚢を使った哺乳類よりも効率的な呼吸によって繁栄し、それは恐竜の子孫である鳥類に継承されています。しかし、哺乳類は内温性の進化と白亜紀後半に現在並に酸素濃度が上昇したことにより、非鳥恐竜と互角に競争できるようになり、非鳥恐竜の絶滅後に大繁栄します。
一部の昆虫も木材を分解しますが、自身にもそうした遺伝的基盤はあるものの、腸内の共生微生物がおもに分解しており、さらに、木材を分解するのに必要な酵素と関連する遺伝子が、菌類や細菌から昆虫系統に取り込まれることもありました。その他に、二枚貝のフナクイムシも樹木の木質部を分解でき、木造船を食べることがありますが、こうした性質は、マングローブの木質部を食べることが選択圧となって生じた、と考えられます。ただ、このようにリグニンを分解できる生物は出現したものの、リグニンの分解には時間がかかり、森林と比較してリグニンをあまり含まない草原地帯では物質循環が速く、その分だけ多くの哺乳類を養えます。
本書は、ヒトにとって身近な生物の具体的事例にとどまらず、広く進化学についても解説しています。進化は遠い将来を見据えた目標に向かって進んでいるのではなく、その場をしのぐためのやりくりの連続である、との本書の指摘はたいへん重要だと思います。本書では、鳥類の翼は元々飛行に使われていたのではなく、保温構造に使われていたものが、配偶者獲得に使われていき、結果的に飛行につながったのではないか、と推測します。こうした前適応は、生物の進化史において珍しくないのでしょう。
本書は人類の進化も取り上げており、一定の拍子を聞かせながら歩かせると、歩行障害の程度が緩和されることなどから、ヒトの音楽と直立二足歩行の進化との関連の可能性に言及しています。現生人類(Homo sapiens)の内耳の構造は、三半規管から構成される骨迷路では、三半規管の大きさや比率の点で他のヒト上科と大きく異なります。アウストラロピテクス属はすでに二足歩行していましたが、現生類人猿的な内耳構造を有しており、これはアウストラロピテクス属に樹上適応が残っていたことと関連しているのではないか、と考えられています。しかし、現代人のような二足歩行をしていたと考えられる初期ホモ属のホモ・エルガスター(Homo ergaster)には、現生人類と同じような骨迷路が確認されています。現代人のような二足歩行と長距離走に適した初期ホモ属は、歌につながる大きな声を出す行為で、獲物の競合者や捕食者を追い払っていたのかもしれません。
参考文献:
長谷川政美(2023)『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』(ベレ出版)
https://sicambre.seesaa.net/article/202406article_1.html
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