イタリアのミラノにおける過去2000年間のヒトの身長の推移を報告した研究(Biehler-Gomez et al., 2023)が公表されました。身長は、遺伝的要素と環境的要素の相互作用により直接決定される生物学的形質で、ヒトも同様です。そのため身長は、骨格の生物学的特性や過去の健康状態や人口集団の社会動態を復元するための指標として評価されることが多くなっています。日本史では、江戸時代の平均身長の低さがよく知られているように思いますが、これはタンパク質の摂取不足のためでしょうか。
本論文は、人類学収集法医人類学・歯科法医学研究室 (Collezione Antropologica LABANOF、略してCAL。LABANOFとは「Laboratorio di Antropologia e Odontologia Forense」の略称)所蔵の549体の骨格の分析に基づいて、ローマ時代から現代までの約2000年にわたるミラノの男女成人身長の通時的傾向の研究を提示します。ミラノ社会の富裕層ではない人々のためのネクロポリス(大規模共同墓地)から得られた骸骨は、以下の5期間のいずれかに分類されました。それは、ローマ時代(1~5世紀)、中世初期(6~10世紀)、中世後期(11~15世紀)、近代(16~18世紀)、現代(19~20世紀)で、先行研究の回帰式にしたがって身長が推定されました。収集されたデータは、Rソフトを用いた単変量分散分析(ANOVA)によって統計解析が行なわれました。
参考文献:
Biehler-Gomez L. et al.(2023): The diachronic trend of female and male stature in Milan over 2000 years. Scientific Reports, 13, 1343. https://doi.org/10.1038/s41598-023-28406-5