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1:保守や右翼には馬鹿しかいない
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雑記帳
2023年02月22日
ニホンオオカミの遺伝的歴史
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_22.html
ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)の遺伝的歴史に関する概説(寺井., 2023)が公表されました。イヌ(Canis lupus familiaris)は恐らくヒトにとって最古の家畜であり、しかもその家畜化の年代は他の動物よりずっと古そうなことから、古代DNA研究も含めてイヌの遺伝学的研究は盛んで、当ブログでも関連研究をそれなりに取り上げてきました。イヌはハイイロオオカミ(Canis lupus)から派生したというか、イヌとハイイロオオカミは亜種の関係にあるとされており、イヌの起源を調べるうえでオオカミはひじょうに重要となり、古代DNA研究も含めてハイイロオオカミの遺伝学的研究も盛んです。当ブログではニホンオオカミも含めてオオカミに関する遺伝学的研究も多少取り上げてきましたが、本論文はニホンオオカミの遺伝学的研究の概説で、当ブログで取り上げていない文献も多数引用されており、ニホンオオカミに関する最新の遺伝学的研究を把握できるので、たいへん有益だと思います。
●要約
本論文は、全ゲノム情報から見えてきたと、イヌを含めて他のハイイロオオカミ種の関係を紹介します。ニホンオオカミはかつてアジアに生息していたハイイロオオカミの1系統で、100 年前頃まで日本列島南部(本州と四国と九州)に分布していましたが、今では絶滅したと考えられています。ニホンオオカミの系統がアジア東部で他のハイイロオオカミから分岐したのは40000~17000年前頃と推定されています。ニホンオオカミはイヌに最も近縁なハイイロオオカミの系統で、ニホンオオカミの祖先がユーラシア東部のイヌの祖先と交雑した、と推定されています。そのため、現生のユーラシア東部の在来イヌのゲノムにはニホンオオカミの祖先のゲノムが含まれています。江戸時代にはイヌとニホンオオカミの交雑個体がいたことも示され、日本列島ではイヌとニホンオオカミの関係は深かったのかもしれません。ニホンオオカミについては、日本列島への渡来時期や小型化したか時期などまだ未解明の問題が多いものの、今後の日本列島出土のイヌ/オオカミの古資料を用いた古代ゲノム情報がさらにニホンオオカミの姿を明らかにする、と期待されます。
●研究史
かつて日本列島南部(本州と四国と九州)には、小型のハイイロオオカミ亜種であるニホンオオカミが生息していました。ハイイロオオカミ種には、北アメリカ大陸集団とユーラシア集団とニホンオオカミとイヌが含まれます。本論文では、ハイイロオオカミ種のうち、イヌとニホンオオカミを除く集団がハイイロオオカミと呼ばれます。ニホンオオカミは100年前頃に絶滅したと考えられており、現存している剥製は日本に3個体とオランダに1個体のみで、詳しく知るための手がかりはあまり残っていません。
ニホンオオカミは、江戸時代に長崎県の出島に滞在したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold)やその助手たちによりオランダに送られました。シーボルトが持ち帰った動物標本は3個体分あり、これら3個体はそれぞれイヌ、オオカミ、ヤマイヌと呼ばれていた動物だった、と推測されています(石黒他.,2021)。されている(石黒ほか 2021)。これら3個体はコンラート・ヤコブ・テミンク(Coenraad Jacob Temminck)により、「Canis lupus hodophilax」として種の記載がされました。この大雑把な種の記載が、その後のニホンオオカミの分類の混乱につながります(石黒他.,2021)。
これら3個体は現在もオランダ国立自然史博物館に保管されています。一方、日本列島北部の北海道にはエエゾオオカミ(Canis lupus hattai)と呼ばれるオオカミが生息していましたが、こちらも100百年以上前に絶滅した、と考えられています。ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析から、エゾオオカミはニホンオオカミよりもイヌ/ハイイロオオカミ集団と遺伝的に近い、と示されています。また、1万年以上前に日本列島に生息していた大型のオオカミも、ニホンオオカミとは別系統であることがmtDNAの解析から示されています(関連記事)。
このように、100年前頃に絶滅したと考えられるニホンオオカミの詳細を知る手がかりは少なくなっていまいましたが、古代DNA研究により、遺骸や堆積物から遺伝情報を明らかにすることもできます。永久凍土の中など保存状態さえよければ、100万年以上前の資料からでも解析が可能です(関連記事1および関連記事2)。これまで、ニホンオオカミの遺骸からmtDNAが解析されてきました。これらのニホンオオカミのmtDNA研究で用いられてきた資料を用いて、最近の査読前論文(Gojobori et al., 2021)では、9個体のニホンオオカミの核ゲノムの全配列(全ゲノム配列)決定が公表されています。本論文は、この研究を中心に、ニホンオオカミの詳細を取り上げます。
●ハイイロオオカミの亜種としてのニホンオオカミ
本論文は、ニホンオオカミやその近縁の分類群について、相互の遺伝的距離と集団間の交雑史を検証します。ハイイロオオカミは北アメリカ大陸からユーラシア大陸にかけての広域分布種で、ニホンオオカミはハイイロオオカミの1亜種とされています。ハイイロオオカミはクレード(単系統群)を形成し、単一の祖先から進化してきました(関連記事)。ハイイロオオカミに最近縁の分類群は、mtDNA解析ではキンイロジャッカル(Canis aureus Linnaeus)となり、核の全ゲノム解析では北アメリカ大陸のコヨーテ(Canis latrans)となります(関連記事)。mtDNAと核ゲノムで分類群の系統関係が異なることはよくあり、たとえば後期ホモ属(関連記事)がそうですが、情報量の多さから、ハイイロオオカミに遺伝的に最も近い分類群はコヨーテだろう、と本論文は推測します(図1)。以下は本論文の図1です。
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ハイイロオオカミの最近縁の分類が北アメリカ大陸に生息することから、ハイイロオオカミの起源は北アメリカ大陸の可能性が高そうですが、北アメリカ大陸にはかつて、ダイアウルフ(Aenocyon dirus)と呼ばれるハイイロオオカミに形態的に類似している哺乳類が生息していました。最近、ダイアウルフの骨からDNA が抽出されて全ゲノム配列が決定され、ダイアウルフはハイイロオオカミに近縁ではなく、北アメリカ大陸に生息するコヨーテやハイイロオオカミとの交雑はなかった、と報告されています(関連記事)。
ハイイロオオカミ内の集団間の関係は、全ゲノム解析(関連記事1および関連記事2およびGojobori et al., 2021)から、北アメリカ大陸の1系統が最初に、次にカナダと北極圏の系統が分岐する、と推測されています(図1b)。ハイイロオオカミのクレードの基部で北アメリカ大陸の集団が分岐することと、コヨーテがハイイロオオカミの最近縁な分類群であることから、ハイイロオオカミの起源は北アメリカ大陸と推定されます。ハイイロオオカミの基部で北アメリカ大陸の系統が分岐すると、残ったのはユーラシア大陸の系統ですが、これは系統関係だけで説明できる分かりやすいものではなく、やや複雑です。
ユーラシア大陸のハイイロオオカミ系統にはイヌ系統も含まれるので、ユーラシア大陸では同所的に異なる系統の集団の個体同士が遭遇するかもしれません。つまり、異なるハイイロオオカミ集団間やそうしたハイイロオオカミ集団とイヌ系統の集団間で交雑が起こるかもしれず、その交雑個体が元の集団の個体とさらに戻し交配することで、2集団間の遺伝子流動が起きます。遺伝子流動のある2集団は遺伝的に近縁になり、系統樹を構築したさいに交雑が起こる前の本来の系統関係に影響を及ぼし、間違った系統関係が導かれてしまいます。そのため、遺伝子流動のある集団の系統関係を調べる場合、まず集団間の遺伝子流動を調べる必要があります。
じっさい、ヨーロッパと中東とアジア中央部とシベリアとアジア東部のハイイロオオカミ集団は、イヌ系統との遺伝子流動が報告されています(関連記事)。しかし、どのイヌ個体とも遺伝子流動のないユーラシア大陸のハイイロオオカミが存在することから、イヌのゲノムに含まれているハイイロオオカミ由来のゲノムが少ない一方で、ハイイロオオカミのゲノムには、集団によって程度は異なるものの、イヌのゲノムが含まれている、と示されています(関連記事)。
こうした複雑な遺伝子流動の歴史がある分類群では、遺伝的距離だけに基づく系統関係を示しても、実際の分岐関係と遺伝子流動の歴史を区別できません。そこで査読前論文(Gojobori et al., 2021)では、ニホンオオカミの系統的な位置を示すため、ニホンオオカミだけでなくユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団とイヌ集団との間の遺伝子流動の歴史を調べ、遺伝子流動の影響を除いた系統関係を示しています。以下、ニホンオオカミの系統的位置の解説の前に、ユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団の遺伝子流動の歴史が取り上げられます。
●ユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団間の遺伝子流動
ニホンオオカミの系統的位置を知るには、まずニホンオオカミと他のハイイロオオカミ集団との間の遺伝子流動を解明せねばなりません。これについては、イヌも含めたハイイロオオカミの集団から得られた多くの個体の全ゲノムの情報を用いた主成分分析(principal component analysi、略してPCA)から、ニホンオオカミは遺伝的に独自の集団を構成する(図2)、と報告されています(Gojobori et al., 2021)。大英博物館所蔵のニホンオオカミ(ホンシュウオオカミとも呼ばれています)は当初、ゲノムデータの解析から更新世にユーラシア大陸に生息していたハイイロオオカミに近縁である可能性が示唆されていました(関連記事)。以下は本論文の図2です。
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しかし、より多くのニホンオオカミ個体とともに解析することで、大英博物館由来の個体もニホンオオカミの独自の集団に含まれ、遺伝的に独自の集団と判明しました(Gojobori et al., 2021)。ニホンオオカミと他のハイイロオオカミ集団の解析から、ニホンオオカミは地理的に遠く隔離された北アメリカ大陸の集団だけではなく、アジア東部も含めたユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団とも遺伝的交流がなかった、と明らかにされました(Gojobori et al., 2021)。一方で、ニホンオオカミはイヌ系統とは遺伝的交流があったことも示されました。
先行研究(関連記事)では、イヌは大きく東西のユーラシア系統に遺伝的に二分されます(図1b)。ユーラシア西部系統にはユーラシア西部(いわゆる洋犬)やアフリカのイヌなどが、ユーラシア東部系統には日本犬やアジア南東部の村落のイヌ、オーストラリアのディンゴ(Canis lupus dingo)、パプアニューギニアの高地で生き残っていたニューギニア・シンギング・ドッグ(NGSD)などが含まれます(Gojobori et al., 2021)。東西のユーラシア系統のイヌは2系統に分岐した後にも遺伝子流動の歴史がありますが、ユーラシア西部系統ではアフリカのイヌが,ユーラシア東部系統ではディンゴやNGSD(関連記事)が、あまり混合せずに各系統の純系に近い系統として残ってきました。これらのイヌは地理的にユーラシア大陸から離れていたため、交雑がなく生き残ってきた、と考えられます。
ユーラシア東部系統のイヌとニホンオオカミとの間には遺伝子流動がありますが、ユーラシア西部系統のイヌとニホンオオカミとの間の遺伝子流動はわずかしかないか、全くありませんでした(Gojobori et al., 2021)。犬種ごとに見ていくと、ニホンオオカミはユーラシア東部系統ではとくにディンゴやNGSD との間の遺伝的交流が多く、ユーラシア西部系統では、アフリカのイヌとの間の遺伝子流動は全くありませんでした(Gojobori et al., 2021、図3)。しかし、この結果は、日本列島にしか生息していなかったニホンオオカミとユーラシア東部のイヌとの間の遺伝子流動がどのように起きたのか、イヌ系統が一度日本に到来してから再度大陸部に戻り、オーストラリアやニューギニアの高地まで移動したのか、などといった問題を提起します。この問題の解明には、まずニホンオオカミを含めたハイイロオオカミの内部系統の関係を知る必要があります。以下は本論文の図3です。
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イヌの系統とニホンオオカミを除く他のハイイロオオカミ集団との間では、中東のハイイロオオカミとユーラシア西部系統のイヌのと間の遺伝子流動が強く示されています(関連記事およびGojobori et al., 2021)。また程度は中東のハイイロオオカミに比べて少ないものの、ヨーロッパやインドのハイイロオオカミにもユーラシア西部系統のイヌとの間の遺伝子流動が見られます(Gojobori et al., 2021)。これらを総合すると、ユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団では、ニホンオオカミとユーラシア東部系統のイヌとの間と、中東のハイイロオオカミとユーラシア西部系統のイヌとの間の遺伝子流動が大きい、と示されました。
●ニホンオオカミの系統的位置
上述のように、交雑と遺伝子流動の歴史がある動物では、実際の分岐関係と遺伝子流動の歴史を区別することが困難です。そのため、正しい系統関係を知るには、交雑した可能性のある個体や集団を系統解析から除く必要があります。つまり、ニホンオオカミとイヌを含めたユーラシア大陸のハイイロオオカミの系統関係を正しく知るには、ニホンオオカミとの間に遺伝子流動があるユーラシア東部のイヌと、ユーラシア西部のイヌと遺伝子流動がある中東のオオカミを除いて、系統樹を構築するのがてきせつです。とくにイヌ系統に関しては、ニホンオオカミとの間にまったく遺伝子流動を示さなかったアフリカのイヌだけを用いるのが最適です。このように比較する集団を選んでの全ゲノム情報に基づく系統解析により、ユーラシア大陸のハイイロオオカミの系統関係が明らかになりました(Gojobori et al., 2021)。
ユーラシア大陸のハイイロオオカミの中で最も系統樹の基部で分岐しているのは、ヨーロッパの集団です(図1a)。次に分岐しているのがアジア東部の集団で、ヒマラヤや中国の集団が含まれます。このアジア東部集団と姉妹群を形成するのがニホンオオカミ/イヌのクレードです。この系統樹には中東のハイイロオオカミとユーラシア東部系統のイヌが含まれませんが、それらを含めた系統解析でも系統樹の樹形は変わらず、中東のハイイロオオカミはヨーロッパの集団とクレードを形成し、ユーラシア東部のイヌはユーラシア西部のイヌと単系統群を形成します(図1b)。
この系統樹からニホンオオカミの系統的な位置が明らかになりました。ニホンオオカミの個体はクレードを形成し、アジア東部のハイイロオオカミの集団とは独立の集団で、イヌの単系統群に最近縁と示されました。イヌはこれまで、とくに近縁なハイイロオオカミ集団が知られていなかったので、すでに絶滅したユーラシア大陸に生息していたハイイロオオカミ集団がその祖先となった、と考えられていました。ニホンオオカミは他のハイイロオオカミ集団と比較して最もイヌ系統に近縁なので、イヌの祖先はニホンオオカミとの祖先から分岐した、と示されました(Gojobori et al., 2021)。
系統樹では、ユーラシア大陸において西部集団が最初に分岐し、次いでアジア東部集団、最後に最も東に位置するニホンオオカミが分岐しています(図1b)。したがって、アジア東部集団とニホンオオカミとの間で分岐したイヌ系統はアジア東部で分岐した、と推定できます(Gojobori et al., 2021)。そのため,イヌとニホンオオカミの共通祖先はアジア東部に分布しており、それぞれ2系統に分岐した後で片方の系統はヒトに飼い慣らされてイヌとなり、もう一方の系統は大陸では絶滅し、最後まで生き残っていた集団が日本列島のニホンオオカミと考えられます。これはまだ推定の域を出ない考察ですが、イヌとニホンオオカミの祖先に近い個体の骨が出土し、古代DNA解析が行なわれれば、イヌ系統がどこで分岐したのか、より詳細に明らかになってくるでしょう。
●ユーラシア東部のイヌへのニホンオオカミからの遺伝的寄与
上述のニホンオオカミとユーラシア東部系統のイヌとの間の遺伝子流動の問題は、以下の4点にわたります。(1)ニホンオオカミとイヌとの間の交雑の年代と場所です。(2)ニホンオオカミとイヌとの間の遺伝子流動(交配と戻し交雑)が、単方向だったのか、そうだとしてどちら側からなのか、また、あるいは双方向の遺伝子流動があったのか、ということです。(3)遺伝子流動があったとしたら、どの程度だったのか、ということです。(4)遺伝子流動の回数です。
まず(1)については、古代ゲノムデータの解析にわり、ニホンオオカミのゲノムの一部領域は9500年前頃にシベリアにいたイヌのゲノムにすでに含まれていた、と明らかになっています(Gojobori et al., 2021)。つまり、ニホンオオカミとイヌとの間の交雑は少なくとも9500年以上前に起きていた、と推定できます。日本列島で最古のイヌの骨は9600年前頃と報告されており、日本列島にイヌがヒトとともに到来したのはその少し前と推測できます。こうした知見から、ニホンオオカミの祖先とイヌとの間の交雑はアジア東部において1万年以上前に起き、すでにニホンオオカミに由来するゲノムの一部領域を有していたイヌが縄文時代に日本列島に到来した、と考えられます。
(2)査読前論文(Gojobori et al., 2021)では、ニホンオオカミからユーラシア東部のイヌへの遺伝子流動が示されています。他のハイイロオオカミ集団とイヌとの間の遺伝子流動の方向はイヌからハイイロオオカミなので(関連記事)、その逆というわけです。
(3)ニホンオオカミのゲノムを最も多く有しているのはディンゴとNGSD で、最大で5.5%程度です(図3)。次いで多いのは秋田犬や紀州犬や柴犬などの日本犬とアジア東部および東部の在来イヌです(図3)。一方、ヨーロッパのイヌやアフリカのイヌからは有意なニホンオオカミからの遺伝子流動は検出されていません。
(4)世界の犬種の遺伝的類似性をユーラシア東部の古い系統であるディンゴ/ NGSDとニホンオオカミについてそれぞれ見ると、ディンゴ/ NGSDに遺伝的に近いイヌはニホンオオカミにも近く、ディンゴ/ NGSDから遠いイヌはニホンオオカミからも遠い傾向があります(Gojobori et al., 2021)。こうした傾向は、ユーラシア東部のイヌの祖先でニホンオオカミからの遺伝子流動により生じた、と推定されています。そのため、ニホンオオカミからイヌへの遺伝子流動は1 回だけ起きた、と推測されます。これらの関係は図4で示されています。以下は本論文の図4です。
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ニホンオオカミを除くユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団とイヌの系統が分岐した年代は4万~2万年前頃で、次にイヌの東西ユーラシア系統の分岐は24000~17000年前頃と推定されています(関連記事)。ニホンオオカミはユーラシア大陸のハイイロオオカミ集団から分岐しており、イヌの東西ユーラシア系統の分岐前にイヌ系統から分岐しているので、ニホンオオカミの系統の分岐は40000~17000年前頃と推定できます。ニホンオオカミ系統は、イヌの東西ユーラシア系統が分岐した後に、ユーラシア東部系統の祖先と交雑した、と考えられます。
ニホンオオカミとイヌとの間の交雑については、実際に起きていた証拠が報告されています。上述のように、シーボルトが江戸時代にオランダに送った標本に、ヤマイヌと呼ばれている個体がありました。この個体由来のDNA を詳しく調べると、ニホンオオカミのゲノムにイヌのゲノムが入っている個体と分かりました。このヤマイヌ個体にゲノムを提供した個体に最も近いと推定されるのは現在の柴犬で、39%ものゲノム領域がこのヤマイヌ個体に含まれていました(Gojobori et al., 2021)。
本論文は憶測と断りつつ、もし江戸時代に生きていた日本犬のゲノムと比較できるならば、このヤマイヌ個体に含まれるイヌゲノムの割合はもっと高い値、おそらくは50%程度になるのではないか、と推測しています。仮に50%程度ならば、このヤマイヌ個体はイヌとニホンオオカミとの交雑第一世代の個体でと考えられます。また、このヤマイヌ個体からmtDNAが調べられており、この個体のmtDNAはニホンオオカミ型と報告されています。mtDNAは母系遺伝なので、このヤマイヌ個体は、母親がニホンオオカミで、父親がイヌと推定できます。
●ニホンオオカミの歴史
以上の知見を総合すると、ニホンオオカミは40000~17000年前頃にユーラシアのハイイロオオカミ集団から分岐した、ユーラシア大陸東部に分布していたハイイロオオカミの1系統で、最後まで生き残った場所が日本列島南部(本州と四国と九州)でした。ニホンオオカミ系統はアジア東部大陸部に分布していた頃にはユーラシア東部系統のイヌの祖先と交雑し、現在もユーラシア東部やオセアニアのイヌのゲノムには、広くニホンオオカミ由来のゲノム領域が存在します。他のハイイロオオカミ集団とは異なるニホンオオカミの特徴は、イヌとの交雑後に交雑個体がイヌに戻し交配していることです。
ニホンオオカミがイヌと最も近縁なハイイロオオカミの系統で、さらにユーラシア東部のイヌのゲノムにニホンオオカミに由来するゲノム領域が含まれていることから、ニホンオオカミの系統はイヌの家畜化に大きく関わってきた可能性が高そうです。こうした独自のハイイロオオカミの1系統が100年前頃まで生き残っていたことは驚くべきである、と本論文は評価します。ただ、ユーラシア大陸から隔離された日本列島であったからこそニホンオオカミが生き残れた、とも言えそうです。本論文は、このようなニホンオオカミの重要性から、すでに絶滅してしまったことを残念に思う、と述べています。
●今後のニホンオオカミ研究
ニホンオオカミのまだ解明できていない大きな謎として、ニホンオオカミの日本列島への到来時期が挙げられます。また、ニホンオオカミの日本列島への到来経路もまだ不明です。ニホンオオカミは他のハイイロオオカミと比較して小型でしたが、その小型が日本列島に到来してからの島嶼化に起因するのか、あるいは小型のハイイロオオカミが渡来したのかも、未解明の問題の一つです。これらの問題は、日本列島で出土しているハイイロオオカミもしくはニホンオオカミの古代ゲノムの解析により明らかになるかもしれません。
ニホンオオカミと日本の在来犬の関係もこれからの課題です。現生日本犬もしくは縄文時代や弥生時代などかつて日本にいたイヌの中で、どの犬種もしくはどの時代のイヌがより多くのニホンオオカミに由来するゲノム領域を有していたのか解明できれば、日本列島でのニホンオオカミとイヌの関係をさらに明らかにできるでしょう。イヌとニホンオオカミの交雑個体がどの程度存在したのかも興味深い問題で、日本列島のイヌ/オオカミの古代ゲノム解析が多くの情報をもたらすことが期待されます。
参考文献:
Gojobori J. et al.(2021): The Japanese wolf is most closely related to modern dogs and its ancestral genome has been widely inherited by dogs throughout East Eurasia. bioRxiv.
https://doi.org/10.1101/2021.10.10.463851
石黒直隆、松村秀一、寺井洋平、本郷一美(2021)「オオカミやヤマイヌと呼ばれたシーボルトが残したニホンオオカミ標本の謎」『日本獣医師会雑誌』63巻1号P389-395
https://doi.org/10.12935/jvma.74.389
寺井洋平(2023)「全ゲノム情報から知るニホンオオカミ」『哺乳類科学』63巻1号P5-13
https://doi.org/10.11238/mammalianscience.63.5
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_22.html
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2:保守や右翼には馬鹿しかいない
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2023/02/26 (Sun) 03:58:56
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警察犬の限界
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14011514
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