777投稿集 2445654


酪農家の窮地を国は救え! 放置すれば4割廃業の危機 血の通った財政出動を

1:777 :

2022/11/24 (Thu) 19:28:16

酪農家の窮地を国は救え! 放置すれば4割廃業の危機 血の通った財政出動を
2022年11月23日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25081

搾乳作業をする酪農家(山口県)

 長引くコロナ禍による物流停滞、国際情勢の悪化による穀物や飼料価格の高騰、円安などの複合的な要因と、食料自給を放棄して輸入依存を深めてきた農政の帰結として、国内農業がかつてない危機に瀕している。特に酪農分野では、乏しい国家支援のもとで酪農家の九割が経営難に直面し、4割が年内に廃業するという予測も流れるほど厳しい状況に追い込まれており、多くの農家が歯を食いしばって生産に従事している。農家の自助努力に委ねて危機を放置することは、農家の首を絞めるだけでなく、世界最低レベルの食料自給率(37%)をさらに押し下げることに繋がり、国民に安心・安全な食を供給することを不可能にし、食料安全保障を崩壊させることになる。国家戦略として一刻も早く国内農業の保護へと大胆に舵を切ることが求められている。



餌代2倍、肥料代2倍、燃料3割高…



 現在、全国の酪農家が「毎月の赤字が大きすぎる」「限界が近づいている」「蓄えを切り崩して耐え忍んでいるが、年末までもつかどうかだ……」と切迫した窮状を訴えている。一昨年に比べて、肥料2倍、飼料2倍、燃料3割高といわれるコスト高が襲いかかり、追い打ちを掛けるように子牛価格が暴落するなど現場の苦境は増しているが、肝心の政府による支援の動きは鈍く、現場からは「手遅れになる前に酪農家が生き延びられる応急処置を急げ」という切実な声が強まっている。





 酪農の苦境は、急に始まったことではない。畳みかける農畜産物の輸入自由化やコスト高のもとで、全国の酪農家戸数は1963(昭和38)年の41万8000戸をピークに減少の一途をたどり、現在は1万3300戸と、58年前の30分の1にまで減少している【グラフ①】。国として立て直さなければ後がないことは早くからわかっていたにもかかわらず、逆にとどめを刺すかのような危機に立たされているのだ。



 牛乳乳製品の国内自給率は、2021年時点で63%(重量ベース)だが、生産者の努力によって飲料用の牛乳は常に100%が維持されてきた。チーズやバターなどの乳製品の輸入が増えているものの、鮮度を保ったまま長距離輸送することが難しい飲用乳は、かろうじて海外勢と競合してこなかった。



 だが2000年に850万㌧だった「生乳」(搾乳したままの牛乳)の生産量は、リーマン・ショックにともなう資源価格の高騰で多くの酪農家が廃業に追い込まれた2008年(平成の酪農危機)に800万㌧を切り、2019年度には731万㌧にまで減少した。



 その後、北海道を中心に農家の生産基盤が拡大・強化され、ようやく生産量が上向きかけた矢先、2020年からはコロナ禍に突入。学校給食の休止や飲食店の休業、さらに業務用の牛乳・乳製品の需要が大幅に減少したことにより、乳製品(主に脱脂粉乳)の在庫が山積みになり、それが長期化したことで工場で処理が不可能な生乳が発生する事態にもなった。



 その危機を乗り切ったところで襲ってきたのが、今年から急激に拍車がかかった飼料価格の高騰だ。もともと飼料の6割を輸入に依存(それを考慮すると牛乳乳製品の自給率は26%)していたところに、ウクライナ危機、中国など新興国の需要増、海上運賃の高騰、極端な円安などの国際情勢を引き金にした価格高騰が襲った。



 酪農にとって飼料費は、生産コストの5割を占める。とくに乳牛は体質がデリケートなため、酪農家は常に牛の健康状態に注意を払いながら、草や乾牧草、サイレージなど繊維質を多く含む「粗飼料」、トウモロコシや大麦などの穀類、米ぬかやふすまなどの糟糠類などの「濃厚飼料」(配合飼料)の2種類をバランスよく組み合わせて与えなければならない。



 日本は配合飼料の89%を米国、豪州、ブラジルなどからの輸入穀物に頼っており、この配合飼料価格は2020年度に1㌧=6万5000円程度だったものが、今年8月には1㌧=10万円へと約1・7倍に高騰している【グラフ②】。





 価格変動による農家の負担を緩和するため、基金で補填する「配合飼料価格安定制度」があるものの、その補填額は直近1年間の平均価格を上回った差額によって決まるため、長期にわたって高止まりが続く現状では効果は薄い。9月時点の配合飼料価格(農家購入価格)は1㌧当り10万500円だが、同制度による補填額は1㌧当り1万6800円にすぎない。そのため国は9月、「配合飼料高騰緊急特別対策」として、生産コストの削減にとりくむ生産者を対象に補助金を交付することを決めたが、1㌧当りの交付額は6750円だ(来年2月に交付)。



 一方、粗飼料の76%は国産だが、牧草自給率が高い北海道を除き、本州では畜産農家の多くが輸入飼料に頼っている。そのうち乾牧草は、米国、豪州、カナダから輸入しており、この価格も前年比1・6倍以上にまで高騰している【グラフ③】。





 牧草の高騰に対しては価格安定制度のような生産者負担を軽減する措置がないため、農家経営への打撃はよりダイレクトだ。



 下関市内の酪農家は、「特に6月から飼料の値上がりが尋常ではない。必要な量の飼料が入ってこなくなり、輸送費が跳ね上がった。私の牧場では、九州からビール粕や醤油粕などを混ぜた濃厚飼料を買っているが、これも値上がりし始めた。牧草は半分自給して半分購入しているが、費用は前年比1・5倍だ。乾牧草は中国が大量に買うため、日本に入ってこなくなっている。ただでさえ夏場は牛がバテて乳量が落ちる。それでもエサの量を減らすわけにはいかず、収入が少ないうえにエサ代は2倍というダブルパンチだ。経営はマイナスで、貯金があるうちは切り崩して凌ぐが、蓄えが底を突けば終わり。先が見えない綱渡り状態だ」と実情を語る。



 別の酪農家も「6月以降、飼料代は概ね2倍、種類によっては3倍になったものもあり、計算するのも嫌になるくらいの赤字だ。生命保険を解約して必要経費の支払いに充てている。毎月200万、300万円の赤字という農家もいる。出荷した乳の収入はすべて飼料代の支払いに消え、生活費どころか他の経費や人件費が払えない。畜産は生き物相手だから、赤字だからといってスイッチを止めて休業するわけにはいかない。毎日決まった量のエサを与え、搾乳も毎日しなければ牛は病気になってしまう。ランニングコストを節約できないのだ。緊急時なので組合でも融資制度をもうけるという話もあるが、身内以外の保証人が必要なので借金も簡単にはできない。高齢者はいまから借金をしても返せないので廃業を選択する人が増えるのではないか。60歳以上が半数を占めるこの地域では酪農がなくなってしまう。一度牛を手放してしまえば、また一から種付けをして、まともに牛乳が出荷できるようになるまでに6年かかる。一度やめてしまうと立ち上がることが難しいのが酪農だ。酪農家がいなくなれば地元の新鮮な牛乳は飲めなくなり、いずれは海外から入ってくるまずいLL(ロングライフ)牛乳(常温で40日間保存できるが超高温で加熱殺菌処理をするため成分が失われる)しか店頭に並ばなくなるのではないか」と憤りを込めて語った。



 全国的に見ても、100頭以上飼養している大規模酪農家ほど赤字幅は大きい。一昨年までは牛1頭につき4万円程度だった飼料費がいきなり8万円に倍増すれば、単純計算で100頭なら400万円、200頭なら800万円の負担増となる。飼料だけでなく、牛の寝床に敷いて体を保護する敷料(おがくずや稲わら)も「ウッドショック」の影響を受けて高騰し、トラクターの燃料代、照明代、ボイラーのガス代などの燃料費も上がっており、「かつて誰も経験したことのない危機だ」と語られている。



買い控えで子牛が暴落 乳牛一頭が110円!?





 さらに追い打ちを掛けたのが、子牛価格の暴落だ。乳牛のホルスタインは、年に1度種付け(人工授精)をし、毎年1回子牛を出産させることで安定的に乳量を維持することができる。雌の子牛が生まれたら後継の乳牛として飼育するが、雄なら2カ月ほど育てて市場に出荷する。また乳牛と和牛を掛け合わせた交雑種(F1)や、和牛の受精卵を乳牛に移植して産ませる和牛など肉用子牛の販売は、酪農家が不安定な乳価を補完するための欠かせない収入源になってきた。



 ところが現在、子牛の買い手である肥育農家も飼料高騰で苦しんでいるため、子牛の確保数を抑えるようになり、とくにホルスタインや交雑種の市場価格は、全国的に前年比の半額以下に落ち込んでいる【グラフ④】。





 子牛を買って育てる肥育農家は、ホルスタインなら約14カ月、交雑種なら約17カ月、黒毛和種なら約20カ月ほど肥育して出荷する。現在出荷を迎えている牛は、子牛価格がまだ高かった2020年後半に導入した牛であり、コロナ禍からの値下がりから枝肉価格が回復してない現在は「高く買って安く売る」ことになる。そのため資金繰りが厳しさを増しているといわれる。肥育大手企業の倒産も影響した。



 北海道では、ホクレン北海道中央家畜市場でのホルスタインの平均価格が、1月の17万4900円だったところから、10月には7万3944円と半額以下に落ち込んだ。同じく根室地区家畜市場では、1月には5万9400円だったホルスタイン(メス)の平均価格が、10月には110円と「缶ジュース以下」の値段となった。



 北海道全体ではホルスタインの平均価格は1月の23万円台から、11月には7万円台へと3分の1以下に暴落しており、市場に出したものの引き取り手がなく薬殺に回される子牛も出ているという。全国的にも前年の半値以下となった市場がザラだ。



 下関市内の酪農家からも、「この辺りでは子牛を規模が大きい熊本市場まで運んで売るが、ホルスタインやF1は、前年比10万円くらい値下がりしている。通常は一頭15万円ほどするところが5万円台になり、最低価格は1000円だった。これでは運賃にもならない。子牛を育てるための粉ミルクも、通常は1万円程度が今は1万4000円ほどに値上がりしており、割に合わない」


 「苦労して育てた牛が110円では泣くに泣けない。それでも抱えるわけにはいかないから手放すしかない。肥育農家が潰れたら酪農家も潰れるという共存関係にあるのが畜産業だ。しかし、これまで乳価が生産コストに見合わないときには子牛の販売で赤字を埋め合わせてきただけに、これもダメになれば八方ふさがりだ」と苦しい実情が語られている。



生産費に見合わぬ乳価 価格転嫁できぬ農家





 酪農危機がようやく認知され始めた今年9月、乳業メーカーと指定団体(酪農協の地域組織)は、11月から飲料向けと発酵乳向けの乳価を1㌔当り10円値上げした。だが近年、生産資材が数倍に上昇するなかで乳価は据え置かれてきた【グラフ⑤】。この1年で生乳1㌔当りの生産コストは30円以上も値上がりしており、「10円程度の値上げでは焼け石に水だ」と語られる。



 酪農家が搾ったままの状態で出荷する生乳は、飲用乳を中心に乳製品の原料として使用されるが、その97%は各地の酪農協などを経て、全国9つのブロックごとに設立された「指定団体」(乳販連など)に集められ、そこから乳業メーカーに全量販売される仕組みとなっている。



 生乳は他の農産物のように貯蔵がきかない「生もの」であるため、鮮度を保つためには集荷配送を短時間でおこなったり、専門的な設備のもとで衛生管理や温度管理を徹底しなければならず、個人では難しいため協同組合の存在が不可欠となる。そして乳業メーカーとの価格交渉も、小さな単位では買い叩きにあうため、より大きな指定団体(各酪農協の集合体)を窓口にした「共同販売」をすることで大手に対して価格交渉力を持つことができるという仕組みだ。



 生乳の最も大きな比重を占めるのが飲用向けだが、飲用の需要がピークを迎える夏場には、牛は体力が落ちるため搾乳量(供給)が減り、逆に冬場は搾乳量は増えるが、飲用の需要は減るという需給のアンバランスがある。指定団体と乳業メーカーは、全量出荷を条件に、加工用と飲用の需給バランスを調整しながら価格を決めるというのが建前だ。



 近年は飲用が1㌔当り114円前後、加工用は35円ほど低い80円程度で取引されており、その価格差の一部を埋める措置として、政府は1㌔当り10円程度の「加工原料乳生産者補給金」(固定支払い)を拠出している。指定団体はこれを生乳の販売収益に加えた形でプールし、輸送費などの経費を差し引いた金額を酪農家に支払っている。



 だが、実際の力関係は、メーカーと酪農家は9対1、さらにスーパーとメーカーは7対3といわれ、スーパーが「この値段では売れない」といえば、めぐりめぐって生産者にしわ寄せがくるシステムとなっている。近年は、コロナ禍でメーカーの乳製品の在庫が山積みとなっていることを理由に乳価は長く据え置かれ、農家はコストを価格に転嫁できず、原価割れ状態での出荷を余儀なくされてきた。



 それを逆利用して、政府は「生乳販売の自由化」を唱え、個々の酪農家が指定団体を通さずに卸売業者に販売できる「部分出荷(二股出荷)」を認めるよう規制緩和したが、需給を調整できずバランスが崩れるうえに、「共販体制」が崩れることで生産者の価格交渉力が弱まり、いずれ大手による買い叩きに繋がることが危惧されている。



 下関市内の酪農家の男性は、「酪農は消費のことまで考えてやらなければいけない独特な産業。いつも社会的要因や政治に振り回され、増産といったかと思えば次は減産。規模拡大しろといったかと思えば縮小しろといわれ、踏んだり蹴ったりだ。山口県では農家が酪農協を通じて出荷した生乳は、中販連を通じてメーカーが全量買いとるが、生産コストとは関係なく、そのときの需要に応じて“売れる価格”が設定される。逆に飼料代が下がったり、子牛の価格が上がって副収入が増えたら、その分乳価は下げられる。会社員でいえば、ボーナスが増えた分、給料が減るようなものだ。メーカーとしても在庫を抱えたくないというのはわかるが、生産者が浮かばれないからどんどん廃業していく。今は農協から振り込まれるはずの乳代が、飼料などの経費を差し引くとゼロどころかマイナスという現状もある。本来ならば国が在庫を買いとって海外支援に回すなどして需給調整したり、経費と乳価の差額分を補填するなどの所得補償が必要なのにそういう発想がない。在庫があり余っているのなら“牛を殺せ”というのが政府だ」と話した。



 また別の農家は「生産者として思うのは、いかに牛乳の消費を増やしていくかだ。少子化で牛乳の消費量が落ちているなかで、組合もメーカーも苦しい。安すぎるのも問題だが、牛乳が高級品になって気軽に飲めなくなるのも困る。どんなに不景気でも適正価格で売ることには協力したいが、コロナ禍で酪農にはなんの支援策もなく、飼料は2倍に上がり、子牛もダメとなれば、どうやって生活していけばいいのか? と聞きたいくらいだ。まして海外製品との安売り競争に委ねられたら、私たちのような小規模酪農家は生き残れない」と問題意識を語った。



 畜産には肉用牛経営安定交付金制度=マルキン(牛・豚肉の生産費から市場価格を引いた赤字の9割を農家に補償する仕組み)があるが、酪農には「二重保護」などの理由で導入が認められていない。だが国からの酪農家への「補給金」は、加工用生乳1㌔当り10円程度で固定されており、実際の乳価とコストの変動にはまったく対応していない。安い乳価とコスト高によって廃業の危機にある国内酪農を守るためには、その不足分を国が補完することが必要不可欠だ。



効果薄い単発支援 生産抑制に動く国




スーパーで売られている牛乳はすべて国産だ

 だが現在、政府が進む方向は真逆だ。


 国やメーカーから「生産調整せよ」の圧がかかる中央酪農会議(指定団体で構成する全国機関)は、生乳需給対策として、今年10月~来年5月28日までの間に、低能力牛の早期淘汰(殺処分)をした農家に1頭当り5万円の奨励金を払うことを決定。対象は、30カ月~60か月の最も生産能力の高い月齢の牛だ。これにより全国7100頭の削減を目標にしている。奨励金の財源は、生産者からの拠出金でまかなうことになる。



 さらに岸田政府は8日、第二次補正予算措置における「酪農対策」として57億円の予算を付けた。その内容は、
 ①乳量が少ないなどの低能力牛を早期淘汰した場合につき、2023年9月までは1頭当り15万円の奨励金を交付する。別途、指定団体が5万円拠出する。2023年10月~24年3月までは1頭当り5万円を交付する【総額50億円】
 ②乳製品の過剰在庫低減のため、生産団体が乳業メーカーの在庫を一定期間保管するさい、必要経費の半額まで助成する【総額7億円】
 というものだ。月齢制限はしておらず、早期淘汰によって全国で4万頭の経産牛(出産を経験した牛)の削減を目指すとしており、全国の酪農家を唖然とさせている。



 「一頭殺せば20万円というが、小規模の酪農家にとっては牛を殺してしまえば出荷する乳がなくなってしまい、奨励金をもらったところでマイナスでしかない」



 「牛は誕生してから15カ月後に種付けし、その後10カ月の妊娠期間を経て出産し、そこから初めて乳牛として生乳生産がはじまる。産まれてから搾乳できるまで2年以上の長い歳月と労力がかかっている。数年前のバター危機や、“和牛ブーム”で国産牛価格が高騰したように、牛の頭数を減らして、今後コロナ後の需要回復で生乳が足らなくなってから慌てても遅い。増産、増産といっておきながら、苦労して培った生産力を目先三寸のその場しのぎで潰してしまうほど馬鹿げたことはない」



 「BSE問題のとき、同じように廃用牛の淘汰で1頭当り20万円の奨励金が交付されたが、そのときは枝肉が1㌔当り5円で買い叩かれた。それが店頭では100㌘当り300円、400円で売られるという始末だった。全国的に廃用牛が増えれば国産牛価格の低迷に拍車をかけ、畜産農家をさらに窮地に追い込むのではないか」

 など、生産現場では冷ややかに語られている。



 そもそも国はTPPに対応する国際競争力強化と称して畜産の大規模化や機械化を奨励し、農家に増産を促してきた。



 2008年の「平成の酪農危機」を受け、店頭からバターが消えた2014年からは生産基盤強化のため施設整備費や機械導入費の2分の1を国が補助する「畜産クラスター事業」を開始。自由貿易に備えた生産基盤強化の号令で、中規模農家は銀行からの借入を増やして設備投資し、牛の頭数を増やして大規模化を進めた。



 とくに全国の生乳生産量の6割を占める酪農王国・北海道では酪農家戸数は減ったが、反比例して一戸当りの飼養頭数は30年前の2・5倍(145・2頭)にまで増加。全国的にも一戸当りの平均飼養頭数は2021年には98・3頭(50年で30倍)と増えている。



 複数の酪農家が合同で法人化したり、数億円を投じて自動搾乳機などの機械化を進め、メガファーム、ギガファームなどの大規模農場がいくつも誕生した。そこに今度は「牛を削減せよ」の号令に現場は混乱し、コスト高騰への支援策も乏しいため、膨大な借金の資金繰りが行き詰まり、破産や廃業の連鎖が起きることが心配されている。



 そもそも農家支援ではない「牛処分」に50億円の予算を付ける一方、国の酪農に対する純粋な支援は極めて乏しい。



 先述の配合飼料価格安定制度による緊急支援も12月までの措置であり、来年の実施は未定だ。その他、国産粗飼料(牧草等)の利用拡大を進めるという名目で、その努力をした農家に対して、経産牛1頭当り1万円(北海道は7200円)を1回限り支給する。また、第二次補正予算では牛の処分を奨励しながら「畜産クラスター」による増産誘導に555億円を付けており、アクセルとブレーキを同時に踏むようなちぐはぐさも目立っている。



 山口県でみると、県は配合飼料価格安定制度に対する農家の積立金(1㌧当り600円)のうち半額の300円を補助。また配合飼料購入費の支援として、1㌧当り4300円を畜産農家に支払うとしている。



 下関市では、7月補正予算による措置で、経産牛1頭当り、酪農家に9000円。和牛生産・肥育農家には6000円を交付するとしている。



 いずれも一回限りや年内限りの短期の対処療法であり、先が見通せない深刻な危機にあってはあまりにも貧弱すぎる施策といえる。



 一方で国は、「コロナから製菓需要が回復した」として、2022年度のバターの輸入枠を従来の7600㌧に3割上積みした9788㌧に引き上げ、今年も生乳換算13万7000㌧もの乳製品輸入を「最低輸入義務」として受け入れている。



 各地の農家からは「政府は苦境をむしろ逆手にとって、いよいよ酪農を潰しにきたのではないか」と怒りをもって語られている。



 乳製品の在庫過剰は政府の増産誘導とコロナ禍による在庫増が主因であり、酪農家のせいでない。にもかかわらず、赤字で苦しむ酪農家の乳価を上げないばかりか、乳製品在庫処理の多額の負担金を酪農家に出させるという不条理までおこなわれている。



 コロナ禍で農畜産物は余っているのではなく、本来消費されるべきものが購買力低下による消費減退で行き場を失っているにすぎない。むしろ政府が積極的に増産を促し、作物を買い上げ、国内外の援助に活用するために財政出動すれば、消費者も助け、在庫も減り、食料危機にも備えられることは、諸外国ですでに実証済みの常識である。



 酪農が壊滅すれば、国内農業の一角が崩れ、その影響は他の農産物や関連産業にも広がり、地方では地域コミュニティの存亡にも繋がる。なによりも食料安保の基幹が揺らぐことを意味しており、一刻も早く真水を注ぎ、酪農を危機から救い出す施策が求められている。

https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25081
2:777 :

2022/11/24 (Thu) 19:32:24

鈴木宣弘 _ 迫る食料危機! 私たちの食と農を守るためにできること
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14062214
3:777 :

2022/11/24 (Thu) 19:34:09

鈴木宣弘 農業消滅!? アメリカの国家戦略に食い荒らされる「日本の食」
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14018404

昭和時代の「食生活」_ 米国の食糧輸出戦略
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14036563

「資本主義的食料システム」 とその歴史
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14055807
4:777 :

2022/12/10 (Sat) 12:06:41

「畜産危機打開へ緊急支援を!」 子牛、豚、鶏も引き連れ…全国の畜産農家が農水省前で訴え 国は食料生産現場を守れ
2022年12月8日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25190

 全国的に農畜産業の苦境が増すなかで、農民運動全国連絡会(農民連)と国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)は11月30日、東京霞ヶ関の農水省前で「11・30畜産危機突破緊急中央行動」を開催し、全国各地の農家が参加した。畜産業界では今、配合飼料や輸入乾牧草などの飼料高騰をはじめ、電気代や燃料費など生産資材が値上がりしている。一方で農畜産物価格は上昇せず、生産者の赤字や借金は膨らみ、経営が圧迫され続けている。かつてない畜産危機を打開するために、農水省前には北海道から九州までの酪農・肥育・養豚・養鶏農家に加え、子牛や豚、鶏も集まった。また、会場に来られない多くの農家もオンラインで参加し、怒りのスピーチをおこなった。東京大学大学院の鈴木宣弘教授もビデオメッセージを寄せた。また、緊急行動の後には、畜産農家の要求を記した政府への第三次「緊急要望書」提出もおこなった。




農水省前でおこなれた畜産危機突破緊急行動(11月30日)

 最初に挨拶した農民連の長谷川敏郎会長は以下のように訴えた。



 今日本の畜産は最大の危機に瀕している。この状況が続けば産業としての崩壊が始まる。まさに今が正念場だ。国民のみなさんにとっても国産の牛乳や牛肉、豚肉、卵が食べられなくなる重大な事態だ。
 私たちは畜産農家を訪問し、10月には野村農水大臣宛の緊急要望書、いわば現代版の直訴状を直接大臣に手渡した。さらに第2次分300人、今日は第3回目でのべ900人をこえる農家の声を届ける。
 今私たちが求めているのは農家への緊急支援だ。畜産は生き物を飼う産業で毎日のエサ代は欠かせない。だが今回の補正予算は、「牛乳が余っているから1頭15万円の補助金を出す代わりに親牛を処分せよ」というものだ。政府は「クラスター事業」で農家に対し「外国のエサは安いから規模拡大せよ」と煽動しておきながら、今度は見殺しにするのか。エサ代はコロナ前から1・5倍になり、生産者負担の増加分は全国で4000億円ともいわれている。しかし政府は800億円の補助しかせず、残りはすべて畜産農家に押しつけている。
 エサの高騰は農家の自己責任ではない。EUは乳価を55%も引き上げ、アメリカも34%引き上げている。再生産可能な価格政策は政府の責任ではないか。従来の対策の延長ではまったく不十分だ。このままでは農家は年を越せない。
 12月22日には第四次の提出行動を計画している。消費者のみなさんと力を合わせ、日本から畜産の火を消さないために頑張ろう。



 続いて、東京大学大学院の鈴木宣弘教授が、以下のような動画メッセージを寄せた。



*          *



 日本の酪農家たちは本当に厳しい状況にある。一昨年に比べて肥料も飼料も価格が2倍、燃料費も3割高と、コストはどんどん上がっている。しかし在庫が多いから価格転嫁できないといって、コメも牛乳も売値がまったく上がらず赤字ばかりが膨らんでいる。このまま放置していたら半年で半分以上の酪農家がやめてしまうかもしれない大変な状況だ。


 そこに追い打ちをかけているのが、「副産物収入の激減」だ。大きな肥育農家が575億円もの負債を抱えて倒産してしまったため、子牛が売れなくなってしまった。夜も寝ずに一生懸命ミルクを与えて育てた子牛が、売れずに殺されてしまう状況になっている。酪農家は精神的にも耐えられなくなり追い込まれている。


 さらに、これ以上生乳を絞っても受け入れないという強制的な減産計画も加わってきている。「乳製品の在庫が多いから減らすしかない」といわれ、昨年北海道の酪農家だけでも100億円規模の負担を強いられている。潰れそうになっている酪農家に対して、乳製品在庫1㌔当り2円70銭などという負担を強いてさらなる追い打ちをかけている。


 そもそも脱脂粉乳が余っているというのに、日本は世界に冠たる膨大な乳製品輸入枠をもうけており、これを「最低輸入義務」だといってやめずに輸入し続けている。しかしこれはあくまで「低関税で輸入すべき枠」としか決まっていない。それでもアメリカにいわれたからといって、コメも乳製品も輸入を続けている。これさえやめれば在庫は一掃されて事態は一気に改善するのにやめない。しかも、今はコメも乳製品も海外の価格の方が高くなってきている。日本に良い物があるのに、それを使わないでわざわざアメリカなどから高く買い、捌けないからそれをエサにして使ったりしている。こんな理不尽なことがあるだろうか。


 普通の国ならコスト高で赤字が生じたら、まず政府は最低限の赤字補填をするが、日本にはない。きちんと他の国のように補填をすべきだ。他の国はこのような事態ではまず、政府が需給の最終調整弁を持っており、穀物も乳製品も買い上げる。そして国内の困っている消費者を助け、外国の困っている人たちも援助する。こうした政策をどの国も持っている。日本だけがそれをやめてしまった。


 そもそも、乳が余っている状況を酪農家の責任のようにいうが、元を正せば「バターが足りない」などと大騒ぎし、生産者に対して国に借金までさせて牛も施設も2倍に増やさせ、どんどん増産するよう国が誘導した。それでいて在庫が増えたから「牛乳を搾るな」「牛を殺せ」という。


 すでに今、有事に突入している。もうすぐ世界の乳製品需給がひっ迫して日本に物が入ってこなくなるかも知れない。そんなときに牛を殺してどうするのか。種付けから乳を搾れるようになるまで3年はかかる。目先の在庫減らしなどの近視眼的な政策によって、これまで何度需給の過剰とひっ迫をくり返してきたのか。日本の政府が他の国のように需給の最終調整弁を持ち、しっかりと生産物を買い上げて国内外の援助に回せば、国内の食料危機も回避できるし国際的にも貢献できる。なぜこのような積極的な政策に財政出動ができないのか。


 国内の農家が本当に潰れそうになっており、自ら命を絶つ酪農家が後を絶たない。政府がなんのためにあるのか考えないといけない。国内の消費者も小売業界もメーカーも、考えないといけない。輸入依存をやめ、国産を使い、国産を食べるように行動しよう。今ここで国内の酪農家が急速な勢いで潰れていけば、供給できる牛乳がなくなる。台湾有事のようなことがいつ起こるかわからないなかで、本当に物が海外から入ってこなくなる。食べるものがなくなる。国民の餓死が現実に迫っている。


 コメは1万2000円だったところから9000円まで値下がりしているが、主食米に対して値下がりの全差額分を支払ったとしても、3500億円だ。全酪農家に牛乳1㌔当り10円、牛1頭当り10万円払ったとしても750億円。食料こそ命を守るための「安全保障の要」だ。食料生産には数兆円かけてでも、国民の命を守るためには絶対に必要だ。


 超党派で「食料安全保障推進法」のようなものを立法する必要がある。縛りを打破して、即刻農林水産業に投入しなければ、今の危機は乗り切れない。「お金を出せば輸入できる」ことを前提にした食料安全保障などもう通用しない。不測の事態に国民の命を守ることが安全保障だ。F35購入費だけで6・6兆円かけ、「防衛費を2倍に」などという前に、食料にこそ財源を投入しなければならない。これが国民の命を守る唯一の道だ。いざというときに食料がなくなっても、オスプレイやF35をかじることはできない。



畜産農家らの怒りの声 牛乳が消える事態も



 続いて、実際に生産現場に携わる全国の酪農家や和牛農家、養豚家、養鶏農家、獣医師などが現場に駆けつけ、畜産現場が直面している窮状を報告し、農水省に対する意見を訴えた。以下、各氏によるスピーチの要旨を紹介する。



 「安全・安心な国産牛乳を生産する会」の酪農家男性(千葉市)は以下のように訴えた。



*        *



 野村大臣、農水省の方々、今日は「酪農やばいです」と伝えに来た。最近、酪農業界の大変さをテレビやネット、国会でとりあげてくれているが、これはほとんど本当のことだ。しかし、厳密にいうと少しだけ違う。それは、「今日もまた赤字が増えている」ということだ。私たちは毎日生産現場の最前線で赤字を増やして牛乳を生産しているので、何日か前のニュースは過去のことだ。北海道で乳牛を1000頭飼っている大牧場の社長が「年間1億円の赤字だ」といっていた。近所の家族経営の酪農家は一昨日、「エサ代の支払いが480万円だ。また借り入れしないと」といっていた。私の農場では、夏の電気代と燃料代がとんでもなく高くなり、来月の運転資金と合わせて200万円借り入れした。



 1日また1日と悪化している。年を無事にこせない酪農家がほとんどだ。クリスマスも金を借りないといけない。餅代のためにも金を借りないといけない。いつ返せるか分からない借金を増やし続けながら、365日毎日休みなく牛乳を搾っている。「辞めればいいじゃないか」と聞こえそうだが、辞められない。国の「増産せよ」の号令に従って牛舎を建てたり機械を買ったりしているから、辞めて返せるような金額ではない。こんな状態が半年以上続いている。それでも「いつか底が来るだろう」「いつか乳がしっかり上がるだろう」「子牛や生乳の相場も戻るだろう」と淡い期待を持っていたが、ゆっくりと時間をかけてわかった。希望が見えません。



 来年3月からの早期リタイアとか「焼け石に水」の対策金など、まったく当てにならない。この冬さえこせないのに、来年自給飼料を作るなんて考えられない。チーズを作ろうといわれても、設備投資もできない。需給ギャップがどうのこうのといっても、今日の生活さえもままならない。それでも、牛はエサをくれといってくるし、乳を搾ってくれといってくる。生きているんだ。モノではないんだ。私はボロもうけしたいのではなく、ただ牛を飼って普通にご飯が食べたい。それさえもできなくなり、限界がきている。酪農はヤバイです。



 私が思うに、11月に乳価が値上げされても経営苦への効果がなく、年内で諦めて年始から廃業に向かう酪農家が大量に出る。残りは3月まで待ってから、「早期リタイア」を使って廃業を考える人も増えるだろう。今後継続できる牧場は1割にも満たないと思う。断言する。このまま1年経てば、需給ギャップは解消されるどころか足りなくなる。スーパーの棚から牛乳がなくなる。毎日の食卓から、学校給食からも、牛乳が消える。「物価の優等生」のあだ名も返上だ。



 牧場がこれだけ潰れたら、当然ながら関係する業者も壊滅する。牧場の従業員、獣医さん、エサ屋さん、機械屋さん、酪農ヘルパー、酪農協の職員、県酪連の職員、指定団体の職員、クーラーステーションの職員、集乳車のドライバー、動物用の薬屋さん、牛の種屋さん、削蹄師さん、検定員さん、コントラクター、農業高校畜産部の方々、乳業メーカー、酪農教育ファームの方々など…私は今いったすべての人たちの顔を知っている。この人たちに私は謝ることしかできない。みんな仕事を失う。もう一度いう。酪農やばいです。壊滅の危機だ。野村大臣には今すぐに現場を救ってほしい。でなければ、酪農の火を消した大臣として歴史に名を残すことになる。「検討する」ではなく、今すぐに現場にお金を落とす対応をとってください。



 そして消費者のみなさん、国産畜産物の値上がりにご理解いただき、ありがたい。みなさまの家計の苦しさは、私たちも同じです。それでも国民の食卓を守るため、また年末年始の牛乳廃棄問題を回避すべく、引き続き消費拡大をよろしくお願いします。



*         *



 千葉県北部酪農協同組合の橋憲二組合長は、「私は約35年間酪農をやっているが、現状はかつてなく厳しい。生きていくうえでもっとも大切な“食料生産”という仕事に誇りを持ってやってきたが、経営が成り立たず、借金を増やしながら酪農をやっていると我慢の限界をこえてばかばかしくなってくる」「今の段階では緊急支援をお願いするしかないが、緊急支援では抜本的な改善にはならない。食料安全保障を前面に打ち出した新しい仕組みを考えなければならない。生産コストに見合った価格で販売されないのはおかしい。一般企業は資材が高騰するたびに年に何回も値上げできるが、私たち農民は需給バランスだけで価格が決まる市場原理の下で、コスト上昇分を価格に転嫁できていない。今のままでは生活できないので、農家に対する直接保障や、生産物に対してコストに見合った契約による取引ができるように変えていく必要がある」と訴えた。そして最後に、「これまでずっと“持続可能な畜産”といわれてきたが、現状は持続可能どころか数カ月ももたない状況が続いている。緊急支援に加え、長期的な視点から私たち農家が安心して生活していける仕組みをみんなで考えていきたい」と語った。



 群馬県養豚協会副会長の上原正氏は、飼料代の高騰や養豚業界をとり巻く豚熱被害とその対応などの問題について、以下のようにのべた。



*       *



 2008年に起きた「平成の畜産危機」でも配合飼料価格が高騰し、多くの畜産農家が危機的な状況に追い込まれた。ただそのときは1年間で配合飼料価格が元に戻り、なんとか生き延びることができた。しかしまた2年前から飼料価格が高騰し、「令和の畜産危機」が起きている。うちの農場では、配合飼料価格が1㌧当り4万円だったものが8万円と2倍にまで値上がりしている。規模が小さい農家では、5万円が10万円になっている。豚1頭当りのエサ代は1万5000円~3万円と、販売価格に近いところまで負担が増えている。



 昨年は配合飼料安定基金からの補填があり、なんとか黒字で税金を払うことができた。しかし今年はほとんどの畜産農家が赤字といわれている。来年1月以降もさらなる値上げが予定されており、1㌧当り4000~5000円も上がるのではないかという報道もある。すでに配合飼料安定基金も枯渇している。全農系は全額支払われているが、メーカーからの補填は4分の1ずつ分割という形で全額支給されていない。



 私がいる群馬県では、70歳をこえ後継者もいないため、今のうちに廃業しようという農家が増えている。借金もなく、無事に廃業できることは「ハッピーリタイア」と呼ばれている。倒産に追い込まれる前に辞めることができる養豚農家はとても幸せだ。なかには豚熱に感染し、飼料価格高騰により農場の再開を諦めた農家もいる。さらに、M&Aで食品卸売会社に経営を売却する養豚家も出てきている。一方で、銀行から借金をして規模拡大した農家は、辞めるに辞められず困っている。



 配合飼料安定基金制度はすでに破綻している。また、赤字になった場合に対応する豚の経営安定交付金・「豚マルキン制度」も、飼料代から安定基金による補填金を差し引いて計算されるため、いまだに発動されていない。



 豚熱は4年前に岐阜県で発生して以来、1年かかってようやくワクチンが打てるようになった。ただ、ワクチンを打つ獣医が足りないということで日本養豚協会をはじめ、各県の養豚協会、農民連などが数年間で十数回の農水省交渉をおこなった。その結果、「追加接種」という形で2回目の接種が打てるようになった。また、万が一九州や北海道に豚熱が広がった場合のワクチンの打ち手を確保するために、生産者が打つことも可能になった。私たちが要求すれば実現することは可能だ。 



来年の営農計画立たず 行詰まる資金繰り



 長野県で獣医師をしている片桐勝則氏は「私は標高1300㍍、人口よりも多い3200頭の乳牛と、300頭の和牛がいる南牧村で約40年獣医をしている。今年になり、33軒ある酪農家のうち3軒が搾乳をやめた。こうした切実な危機感を持ったなかで、村内すべての酪農家のみなさんが、今回農水省に提出する要望書に思いを記してくれ、それを私が預かってきた。自民党の農家もいれば共産党の農家もいるが、党派をこえて“この切実な思いを農水省に伝えてくれ”と託されて私がここに立っている」「“水よりも安い”といわれる牛乳を、どれだけの酪農家が苦労して生産し、その生産のために私たち獣医師も含めた多くの人たちが関わっているということをぜひ消費者のみなさんにも知ってもらい、消費者と生産者が手をとり合って畜産危機を乗りこえたい。この間、BSEやO-157、口蹄疫といった困難を乗りこえてきたのが酪農・畜産業だ」とのべた。



 その他にも生産者からの発言があいつぎ、切実な現場の窮状を訴えた。



 「酪農地域では今、牛の生産抑制がおこなわれている。収入を増やしたくても、乳を搾ることができない。今年は天候が悪かったため、牧草の収穫が前年度よりも少ない。さらに配合飼料などの穀物の価格高騰、電気代・資材の高騰、子牛の価格が暴落し買い手が付かず、農家に戻ってくる。農家はその子牛を安楽死させるしかない。飲料乳価は11月から1㌔当り10円値上がりすることになるが、加工向けが多い北海道では、積み上がった加工原料乳の在庫処理のため、生産者が1㌔当り2~3円を拠出している。実質的には赤字が増えるばかりで、一農家では対策が不可能だ。政府の今の対策では危機を救えない。畜産危機を打開するための緊急対策を本当にもっとよく考えてほしい。そうでなければ来年の営農計画が立たない。消費税負担も大きい。インボイス制度も中止しなければならない。このままでは収入1000万円以下の農家は生きていけなくなる」(北海道・酪農家)



 「父や祖父などが代々受け継いできたこの生活がなくなると思うと本当に悲しい。農水省は農業に携わる者として農家を一軒一軒回って話を聞いてほしい。私たち世代は将来に向けてやる気は十二分にある。それを国が支援してくれるよう求めていきたい。日本の成長は食料なしに実現できない。日本の命を守る農業という仕事に携わるたくさんの人の声を聞いてほしい」(宮崎県・肥育農家)



 「養鶏農家でもエサが値上がりしてとても大変だ。うちでは購入飼料と自給飼料米、トウモロコシ、大豆、麦も自前で作って与えている。私たちが育てている牛、豚、鶏、野菜などはすべて大事な食料だ。食料を守るのが日本政府の役割だ。食料供給のために欠かすことのできない飼料が高騰して困っている農家に対し、政府は国民の食料を守るという立場から考えてほしい。消費者も一緒に安心安全な国産の食料を食べて生活してほしい」(埼玉県・鶏卵農家)



 島根県酪農協議会の西谷悟郎会長は、日に日に資金繰りが困難になる生産現場の実情について、以下のようにのべた。



 私は酪農家の2代目だ。少数の酪農家たちが集まって一緒に小さな酪農組合をやっているが、今までにこれほど厳しい状況はなかった。もう組合による農家の立て替え払いができなくなり、一昨日組合のメインバンクであるJAしまねに金融支援を要請して、とりあえず3000万円借り入れた。その資金もあと3カ月間農家の建て替え払いに充てたらなくなってしまう。毎日毎日仕事をして、精算日には金を持ってこいというような今の状況下で仕事を続けていけるわけがない。行政は金融機関に対して農家への積極的な融資を呼びかけるが、今赤字が増え続けているのに、そのお金はいつ、誰が返すのか。農家経営を預かる農水省は農家の保護者だ。保護者がこの状況を投げるのなら、保護責任者遺棄致死だ。畜産危機というが、これはまぎれもなく「食料危機の始まり」だ。中小の家族経営が成り立つような経営環境を国が作らない限り、この国の農業は寂れてしまう。今やらなければとり返しがつかなくなる。もっと食料を守るための農水省であってほしい。



政府に直接要望書提出 今後も取組を継続



 緊急行動の後に、政府に対して畜産農家が抱えている意見を届ける「畜産経営を継続するための緊急要望書」の第三次分の提出をおこなった。



 要望書では、「私たち畜産農家・業者は、国民に畜産物を安定供給するため、日々、家畜の世話に汗をかき、農業生産に懸命にとりくみ、食糧供給と地域経済を支えています。しかし今般の飼料、燃料、資材、農業機械などの生産コストの高騰により、私たちは今、かつて経験したことのない深刻な経営危機に直面しています。このままでは経営を継続することは困難です」とし、以下の項目について、国に緊急対策を求めた。



 一、飼料をはじめとした生産コストの高騰は、コロナ禍や世界的な異常気象、円安、海上輸送費の高騰などが原因です。現行の配合飼料価格安定制度では価格高騰分の一部しか補てんされないため、経営を維持できません。政府は、畜産危機を打開するため、従来の枠組にとらわれない抜本的な対策を行い、コスト上昇分を全額、補てんしてください。



 一、畜産経営を維持するため、コスト上昇分を価格に転嫁できるよう、国は責任を持ってメーカーなど実需者に強く働きかけてください。



 農民連は、この要望書を誰でもダウンロードできるようにホームページに公開している。そして「思いを記入して農民連に送信してください。また、あなたの知り合いの畜産農家に届けて協力を呼びかけてください。メールでも、FAXでも結構です。届けられた要望書は、一定数がまとまり次第、随時、農水省に提出して要請します。ご協力をお願いします」と訴えている。次の提出行動は12月22日の予定。
 
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25190
5:保守や右翼には馬鹿しかいない :

2023/01/08 (Sun) 06:16:25

食料危機が突きつける農業再生の課題――正念場迎えた日本の食料生産 東京大学大学院教授・鈴木宣弘
2023年1月6日
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/25439

 現在、世界的な食料危機の要因となっている「クワトロショック」(コロナ禍、中国など新興国による大量の食料輸入、異常気象、ウクライナ紛争)は、「食料は金を出して買えばよい」といって食料生産をないがしろにし、農産物の輸入自由化を進めてきた戦後日本の政策が、国民の命を守ることができないまでに国の土台を崩壊させてきた冷酷な現実を突きつけた。



 コロナ禍で起きた物流停止が回復せず、中国の食料輸入の激増による食料価格の高騰と日本の「買い負け」懸念が高まっていた矢先、昨年二月からウクライナ紛争が勃発し、日本がほぼ100%海外に依存する小麦をはじめとする穀物価格、原油価格、化学肥料の原料価格などの高騰が日ごとに増幅され、食料やその生産資材の調達が困難の度合いを強めている。



 突きつけられているのは、高くて買えないどころかものが入ってこないという現実だ。「自国で作るよりコストが安い」といって輸入に頼る短絡的な発想は、その前提が崩れたときに打つ手がない。そもそも飢餓が発生して命を失ってしまうこと以上のコストはないはずである。それが分かっているからこそ先進各国は、公費を投じて国内生産を守り、高い食料自給率を維持し続けている。自国での生産を放棄し、買うことを前提にした「経済安保」など無意味なのだ。



 日本の食料自給率は38%と先進国で最も低く、こんな状況で食料危機に耐えられるのかという議論が始まっているが、実質の自給率はもっと低いということを認識しなければならない。国産80%といわれる野菜も、その種の九割は外国の圃(ほ)場で種取したものであることを鑑みれば10%。リンやカリウムなどの化学肥料原料の自給率はほぼ0%だ。畜産に着目しても、鶏卵は国産率97%だが、飼料(トウモロコシは100%輸入)が止まれば自給率は12%、ヒナも100%近く輸入だ。これら生産資材の自給率の低さを考慮すると、実際の食料自給率は38%どころか10%あるかないかという惨状である。



 このままだと2035年までには、飼料の海外依存度まで含めて考慮すると牛肉、豚肉、鶏肉の自給率はそれぞれ2%、1%、2%。種の海外依存度を考慮すると野菜の自給率は四%と、信じがたい低水準に陥る可能性があり、命綱ともいえる国産97%のコメも野菜と同様になってしまう可能性も否定できない。



 このような状態を放置して、もし海外からの物流が止まれば、国民の生命を守ることはできない。いつ餓死者が出てもおかしくないような薄氷の上に生きていることが、今こそ認識されなければいけない。



 昨年8月、私たちの命がどれほど脆弱な「砂上の楼閣」に置かれているかを裏付ける衝撃的な試算を、米ラトガース大などの研究チームが科学誌『ネイチャー・フード』で発表した。米露戦争の核戦争が起きた場合、直接的な被爆による死者は世界で2700万人。さらに深刻なのは「核の冬」による食料生産の減少と物流停止によって、2年後には世界で2億5500万人の餓死者が出て、そのうち日本が3割を占め、人口の6割におよぶ7200万人が餓死するというものだ。非常にショッキングな試算だが、前述した日本の食料自給率の現状から考えれば当然の帰結と考えるべきだろう。



危機にやるべきことは減産ではなく増産




搾乳する酪農家(熊本県菊池市)

 その日本において今何が起こっているか。国内農業の生産コストは、一昨年に比べて肥料は2倍、飼料も2倍、燃料は3割高という暴騰に悩まされる一方、農産物価格はほとんど上がっていない。農家は赤字に苦しみ、酪農家はこの半年で9割が廃業してしまうかもしれないというほどの苦境にあり、米価暴落で赤字を膨らませているコメ農家も含めて廃業が激増し、物凄い勢いで国内農業が壊滅しかねない状況に追い込まれている。



 食料危機のリスクが高まっているときに国がやるべきことは、国内の農家を守り、国内生産を増強することであるにもかかわらず、この危機的状況下でも政治の動きは鈍く、むしろコロナ禍でコメや牛乳や砂糖が余っているから「減産しろ」と要請している始末だ。農家の意欲を減退させている場合ではない。政府が積極的に増産を促して買取り、コロナ禍で弱った国内の消費者を助け、飢餓人口が八億人に達する世界に向けて日本の生産力で作った食料を人道支援として届け、積極的に需要を作っていく――そのような「前向きな財政出動」こそ求められる。



 ところが「今だけ、カネだけ、自分だけ」(三だけ主義)で目先の自己利益を追求する巨大な日米のオトモダチ企業が政治を取り込み、彼らの利益のために農家や国民から収奪する政策ばかりが実行され、農家を支える政策が出てこない。



 「コメを作るな」「牛乳を搾るな、牛殺せ」と国内農家に減産を要請し、生産費も賄えないほどの低所得を押しつけておきながら、「ミニマム・アクセス」のコメ77万㌧、乳製品13・7万㌧の膨大な輸入だけは義務として履行する。ウルグアイラウンド(UR)合意で定められたミニマム・アクセスは「低関税適用」の枠にすぎず、輸入量を義務づけるものではない。それを日本だけが「最低輸入義務」といって入れ続けるのは、米国との密約を忠実に遵守しているからにほかならない。



 しかも、「安い」はずの輸入食料は、国際的な需給ひっ迫と円安効果によって国内の農産物より高くなっている。毎年33万㌧押しつけられている米国産のコメ価格は国内産の2倍であり、高くて使いものにならないからといってさらに税金を使って餌などに回すという信じがたい有様だ。



 日米2国間のサイドレターによる合意により、米国企業が日本にやってもらいたいことは規制改革推進会議を通じて実行する約束になっているため、この法的位置づけもない諮問機関から「これをやりなさい」といって流れてきたことには、政治も行政も関連組織もまったく反対できず、審議会すら機能していない。「与党の国会議員になるよりも規制改革推進会議メンバーに選んでもらった方が政策が決められる」と与党議員が嘆いているほどである。



 そのため世界的な食料危機や国内農家の苦しい状況があるにもかかわらず、現場から上がってくる要求を実現させるための政策決定プロセスが崩され、人々の命、環境、地域、国土を守る根幹である食料生産を支える政策がまったく出てこない。米国の経済界と密接に繋がった、利害が一致する仲間内だけで国を切り売りする――その一部の利益のために、日本の食と農、関連組織、所管官庁までもなし崩し的に息の根をとめられてしまうという方向性は、まさに「終わりの始まり」である。



農業守ることこそ国防の要



 このような時こそ、地方自治体を含めて、協同組合や市民組織などの共同体的な地域の力が奮起し、自分たちの地域、暮らし、そして命を自分たちの力で守る動きを強める必要がある。この状態を放置すれば、いざ物流が止まったときに国民の食べるものはなくなる。地域の農業が崩壊すれば、関連産業も農協も自治体行政も存続できない。



 消費者の皆さんも「安い、安い」と輸入品に飛びついてしまったら、自分の命も守れなくなる。必要不可欠な食料を狭い視野の経済効率だけで市場競争に任せることは、人の命や健康にかかわる安全性のためのコストが切り詰められてしまうという重大な危険をもたらす。



 安さには必ず理由がある。日本のように米国農産物に量的に依存する状態が続くと、たとえそれらの食料に健康上の危険性(禁止農薬や防カビ剤、成長促進剤、ホルモン剤使用による健康リスク)があったとしても文句もいえず、「もっと安全基準を緩めろ」といわれたら従わざるを得ない。量だけでなく質の面でも食の安全は崩され、食料自給率が一%台になればもう選ぶことすらできない。それを考えれば、少々高いように思えても地域で作られる「ホンモノ」の農産物をみんなで支えることこそ、自分の命を守ることでもある。



 多国籍企業の要請を受けて国は種子法を廃止し、公共のものとして守ってきた主要作物の種子まで民間企業に委ねる方向を決めてしまった。優良な種子を多国籍種子企業に握られてしまい、有事に物理的に種子が入ってこなくなれば飢餓が起きかねず、「種を止めるぞ」と脅されたら従わざるを得なくなる。それはもはや独立国とはいえない。



 私たちは生産者、消費者、業者も自治体も「運命共同体」であることを認識し、地域の伝統的な在来品種のタネをみんなで守り、農家を支え、生産されたものをみんなで消費して支えなければならない。そのうえでひとつの核になるのは学校給食であり、自治体が主導権を握って公共調達にし、地元の安心・安全な食材を届け、食料を作る農家の「出口」として支えるなど、地域循環型のネットワーク作りが今こそ必要だ。



 「お金を出せば食料が買える」という時代は終わろうとしている。不測の事態(有事)に国民の命を守るのが国防であるなら、国内の農業、地域の農業を守ることこそ国防の要である。現在、安全保障をめぐって、増税してでも防衛費を5年で43兆円にする、「敵基地攻撃能力」を持つなどの勇ましい議論がおこなわれているが、足元を見てよく考えるべきである。日本は世界で唯一、エネルギーも食料もほとんど自給できていない。そのうえ現在のように農業を消滅させるような政策を継続するなら、敵を攻撃しようにも逆に食料を止められ、戦う前に餓死である。



 このような情けない現実を直視し、私たちは今こそ国として食料にこそ数兆円規模の予算を投入し、地域で頑張っている食料生産を支えなければならない。全国の小中学校給食のベース部分を国が負担しても年間5000億円。コメ農家を支えるためにコメ1俵9000円の販売価格と生産コスト1万2000円との差額を主食米700万㌧すべてに補填しても3500億円。全酪農家に生乳1㌔当り10円補填しても750億円だ。



 「国防のため」と称して、F35戦闘機(147機)に6・6兆円、オスプレイ1機100億円、防衛費として兵器購入に5年で43兆円を注ぐというのならば、それは微々たる金額だ。武器は人を殺すものだが、食料は命を救うものであり、国民が飢えたとき戦闘機やミサイルをかじるわけにはいかないのだ。何度もくり返すが、食料こそ安全保障の要である。



 財務省はこの国難といえる事態において、大局的見地でどこにお金を使えばいいかが判断できなくなっている。「農水予算など2・3兆円以上増やせるわけがない」と一蹴するような従来の思考停止議論を突破し、数兆円規模の予算をまず食料を守るために使わなければ日本は持たない。



 そのためにも「食料安全保障推進法」を超党派の議員立法として成立させ、財務省の縛りをこえて数兆円規模の予算を食料生産に投じることができるようにすべきであり、同時に地域の在来品種の種を守り、循環型食料自給を進める「ローカルフード法」を早急に成立させなければならないと考えている。



 今日本はたいへんな岐路に立っている。「三だけ」市場原理主義に決別し、種から消費までの地域住民ネットワークを強化し、地域循環型の経済を確立するため、それぞれの立場から行動を起こすべき時がきている。皆さんの地域での粘り強いとりくみが、その流れを変える非常に重要なとりくみとなる。それを誇りにして、私もともに頑張りたい。
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/25439
6:保守や右翼には馬鹿しかいない :

2023/01/08 (Sun) 06:20:09

鈴木宣弘 _ 迫る食料危機! 私たちの食と農を守るためにできること
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14062214

鈴木宣弘 農業消滅!? アメリカの国家戦略に食い荒らされる「日本の食」
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14018404



7:保守や右翼には馬鹿しかいない :

2023/01/09 (Mon) 20:14:42

今年の冬を乗り越えられない!もはやギリギリな日本の畜産業[三橋TV第649回]大塚健太・三橋貴明・高家望愛
2023/01/09
https://www.youtube.com/watch?v=apsA8r_wxuE


農業は国防だ!もはや洒落にならん日本農業の現実[三橋TV第648回]石原達郎・三橋貴明・高家望愛
https://www.youtube.com/watch?v=Ne_VpDFlMRg&t=295s


農業国防研究所 - YouTube
https://www.youtube.com/@user-or8bj4zc9h/videos
8:保守や右翼には馬鹿しかいない :

2023/03/01 (Wed) 12:34:15

この国から酪農の灯を消すな! 政治が放置すれば国産牛乳消滅も 院内集会での生産者や鈴木宣弘・東京大学教授の発言から
2023年2月28日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25931

酪農家や消費者団体による院内集会(2月14日、参議院会館)

 飼料などの生産資材の価格高騰と、海外からの輸入維持政策のため需給バランスがひっ迫している酪農業界では、生産費を賄えない安い乳価で農家の9割が赤字経営を強いられているといわれ、全国で急速に離農が進んでいる。北海道では乳価のわずかな値上げと引きかえに生産抑制(減産)がおこなわれ、農家は搾った牛乳を毎日廃棄せざるを得ない事態にもなっている。東京永田町の参議院会館で2月14日、全国各地の酪農家や消費者など200人が集まり、「酪農・畜産の危機は、国民の“食”の危機――日本から畜産の灯を消すな!」と題して院内集会がおこなわれた(主催/食料安全保障推進財団、安心安全な国産牛乳を生産する会、農民連、食健連)。集会では、酪農・畜産の存亡の危機に対して、国に血の通った財政出動を求めるとともに、国内農業の苦境について消費者にも理解を求め、この窮地を乗り越えるために協力を呼びかけた。



食料を守るために政治は動け



 はじめに主催団体を代表して農民連の長谷川敏郎会長が挨拶した。
 「酪農をめぐる事態は日々刻々と深刻さを増している。国産牛乳が飲めなくなるかもしれない。まさに日本から畜産・酪農の灯が消えるかどうかという瀬戸際だ。とりわけ昨年8月以降、急激に事態が悪化し、この3月に大量の離農が生まれかねない。この危機を打開するために、酪農家や生産者だけでなく、消費者、生活協同組合、国会議員も参加し、国民の大運動として超党派でこの運動を広げなければいけない」とのべ、全国の酪農家からの要望を野村農水大臣に提出したさいの面談内容を報告した。



 「野村大臣はカレント・アクセス(毎年生乳換算13・7万㌧の低関税輸入枠)は“義務ではない”と認めたが、“それなら輸入をするな”というと“国家として約束を守らなければならない”といい逃れる。そして“そうしないと食料自給率の低い日本に外国は食料を輸出してくれなくなる”などと、食料自給率が低いことまで理由に挙げた。食料自給率を引き上げるためには、国内消費の6割にも及ぶ食料輸入を減らすべきであることを指摘したが、“議論する”というだけだった。今国会でも酪農や畜産にかかわる救済法案は一本もなく、酪農を見殺しにしようとしている。酪農・畜産を守るために国政の役割を果たさせなければいけない」と訴えた。



 続けて、食料安全保障推進財団理事長の鈴木宣弘氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、北海道や関東の酪農家たちが現場の生々しい実態を報告し、消費者団体の代表らも連帯のスピーチをおこなった。集会のなかから、鈴木教授の発言と生産者の主な声を紹介する。



■農家の危機は国民の食の危機。命を守るための運動を


東京大学教授 鈴木宣弘  



 今、酪農家は7重苦といえる苦境にある。生産資材が暴騰(一昨年に比べ肥料2倍、飼料2倍、燃料3割高)しているのに価格転嫁できずに農家の赤字がどんどん膨らんでいる。しかも子牛が売れず、副産物収入まで激減している。この危機において、“これ以上搾っても受け付けない”という強制的な減産要請で、4万頭もの乳牛の処分が求められ、北海道を中心に生乳廃棄に追い込まれ、さらに収入が減る状況になっている。



 しかも“脱脂粉乳の在庫が多いのだから、在庫処分の出口対策は農家が負担しなさい”ということで生乳1㌔当り2円以上、去年は北海道だけで100億円規模の負担金を酪農家に負わせている始末だ。



 なぜ乳製品在庫が多いのかといえば、本来は国際協定上の「低関税枠」でしかないものを、国が「最低輸入義務」といい張って莫大な乳製品(生乳換算13・7万㌧)の輸入を毎年続ける異常事態があるからだ。しかも他国のようにコストが高くなって国内農家が赤字になったときにおこなわれる最低限の補填制度もない。



 他の先進国ではどんどん農家に生産を促し、それを政府が受け付けてフードバンクや子ども食堂に届けたり、海外の飢餓救済のための人道援助に回すのだが、政府が需給の最終調整弁を果たすという仕組みを唯一やめてしまった国が日本だ。



 すでに98%の酪農家が赤字というデータが出ている。このまま放置すれば、子どもたちの成長に不可欠な牛乳を供給する産業が持続できなくなる。酪農家の収支データを見ると、この半年で急激に赤字が増え、昨年1~3月に牛乳1㌔当り15円程度だった赤字が、いまはもう30円をこえている。この状況では、10円程度値上げしたところで焼け石に水だ。



 政府は、「飼料価格高騰への補填などを合計すると生乳1㌔当り五円程度の補填に相当する」といい、これで十分であるかのようにいい張っているが、そもそも参考にしているデータが古い。1、2年前のデータを揃えて「もう十分だ。何が悪いのか」といっている。このような現場に寄りそわない政治・行政は失格といわざるを得ない。



 しかも3月からは、牛を殺せば1頭につき15万円支給するという。そもそもバターが足りないといって大騒ぎし、これまで農家に「増産せよ」といって、大規模化を促してきたのは政府自身だ。現在、世界の乳製品の需給はひっ迫しはじめており、もうすぐ乳製品が足りなくなるのは目に見えているのに、強化・増産しなければいけない生産力をみずから削いでいく「セルフ兵糧攻め」をやっているに等しい。



 近い将来、今度は牛乳が足りなくなるが、牛が生まれてから牛乳が搾れるようになるまで育てるには3年はかかるため、増産しようにも絶対に間に合わない。場当たり的な政策で過剰と不足をくり返し、そのしわ寄せを農家に被せる連鎖はもうやめなければならない。


 今やるべきは前向きな財政出動だ。農家にどんどん増産してもらい、国の責任で備蓄も増やし、生産物を国内外の食料援助に回すことだ。アメリカからの要求(密約)を丸呑みにして、保身のために農家と国民を見捨てるのなら、この国の食料危機は深刻化せざるを得ない。



 減産するのなら他の国のように輸入を止めればよく、国内の在庫を消費することが先決だ。なのに北海道だけで14万㌧もの減産を要請し、「牛を殺せ、牛乳を捨てろ」といいながら、同じく14万㌧近くの輸入乳製品を海外から無理矢理入れているのだ。今や乳製品もコメも海外産の方が4割も高い。国産に比べて粗悪な生産物を高く買い、それを誰も買わないから家畜のエサに回し、そこでまた税金を使っている。乳製品も国際価格の方が高くなり、落札されずに余っている状態だ。



 先日、NHK『クローズアップ現代+』で酪農危機が報道され、衝撃が大きかったため、政府は次の様に釈明している。


 ①なぜ乳製品を人道援助に使わないのか?――「要請がないから援助はできない」
 ②乳牛淘汰事業は後ろ向きではないか?――「乳牛淘汰は農家が選択したものだ」
 ③なぜ義務でない輸入を続けるのか?――「業界(メーカー)が求めるから輸入している」


 人道援助はみずからおこなうものだ。嘘がばれるとまた次々と違う理由を出してきていい訳しているが、農家が価格転嫁ができなくて困っているときに、国が責任転嫁をしている場合ではない。



 外国の顔色をうかがって農家や国民に負担を負わせる政治は限界が来ている。現場に寄りそう気持ちを忘れず、保身のためでなく日本のためにわが身を犠牲にする覚悟を持ったリーダーが必要だ。この事態を放置すれば、消費者も国民全体も自分の命さえも守れないことに気がつかなければならない。



 酪農が壊滅すれば、国民が飲む牛乳が消滅し、農協もメーカーも関連産業もみな消滅する。みんなが「運命共同体」であることを認識し、一人一人が今できることを一緒に行動しなければいけない。政治家はもとより、それなりの年齢になった方は、わが身を犠牲にしてアメリカとたたかってでも、国民を守った、農業を守ったという有終の美を飾る覚悟を決め、残りの人生を自分が盾になるくらいの気持ちで頑張らなければいけない時に来ている。




酪農家の搾乳作業(熊本県)

■98%の酪農家が赤字。国は早急な財政支援を


安心安全な国産牛乳を生産する会 加藤博昭 



 今の酪農の情勢は、酪農の歴史始まって以来のとても厳しい状況だ。日本全体の酪農家がすべて赤字といってもいい。安全安心な国産牛乳を生産する会が昨年12月におこなったアンケート調査では、98%の酪農家が赤字と答えた。



 昨年7、8月ごろから急激に赤字が増え12月段階で「乳代(牛乳の売上)でエサ代が払えない」という人が98%。「もう辞める」という人が11%だ。3月までこの状態が続けば辞めるという人が16%。あわせて27%が3月をメドにもう酪農は無理だといっている。とてつもない危機だ。



 この現場の状況に対して、政府も農水省も危機感がなく、報道にも流れず、消費者にも伝わらない。なぜこれほど温度差があるのか? 彼らが集めているデータは古く、昨年8月からの状況を調べていないのだ。酪農のエサ代は経費全体の5割を占めるが、それが乳代で払えないということは、残りの経費もすべて払えない。そんな産業は間違いなくつぶれる。



 酪農は経営母体を作り上げるまでにとんでもない経費がかかる。だから多くの酪農家がかなり大きな負債を抱えている。それが返すに返せず、辞めるに辞められない状況だ。前にも進めず、後ろにも行けない。農家は牛乳を売って生活しており、経費高騰分が乳代に反映されなければならないのだ。現場でどれだけの乳代が必要かといえば、私たちの調査では生乳1㌔当り30~35円上がらなければ酪農経営は不可能だ。



 だから「乳代に反映してほしい」と地元の関東生乳販連にくり返し要望した。だが今回、酪農組織の上部団体である関東生乳販連(関東生乳販売農業協同組合連合会)がメーカーにあげた値上げ要望は1㌔当り15円。15円の要望をあげて15円が返ってくるとは思えないが、そもそも15円でなんとかなるわけがない。同じことのくり返しが起きる。



 農水大臣は「酪農は乳価を自由に上げられる産業なんだから頑張ればいい」というが、やってもやっても乳価交渉ができない構図がある。力関係があまりに違う。とてもではないが自分たちの希望は通らない。それが今の現状だ。だから農家は貯金を全部崩し、返せるあてのない負債をまた借りている。借り入れもできなくなったら、廃業、倒産、下手をしたら命にかかわる状況が起きてもおかしくない。



 だから国に助けてもらわなければどうにもならない。先ほど、私たちは国に要望書を出してきた。
 一番目には、とにかく現金をどんな格好でもいいから農家に早く落としてほしい。時間がない。国の飼料価格高騰緊急特別対策事業では、前回は配合飼料1㌧当り6750円が出ているが、こんな金額ではとてもではないが足りない。1㌧当り2万円を継続的に出してもらいたい。それでも赤字だが、配合飼料の値上がり分だけでも補填できる。先が見える何かがあれば、次の対策がくるまで頑張れる。大臣は「お金なら国が出しますよ」といわれたが、早急に出していただきたい。消費者の皆さんにも、どうかご理解いただきたい。



■需要あるのになぜ乳価が上がらないのか


千葉県・酪農家 石橋祐行   



 今、日本の酪農が窮地に追い込まれている。そのうえで見直さなければならないのは、今の組織構造だ。酪農組織のなかには、各単協あるいはJA農協、それらを統括する県酪連、そして上部団体として生乳販連がある。この生乳販連がメーカーと乳価交渉をして適正な価格に持っていく立場にあるが、そこが機能していない。



 先日も関東乳販連の役員にも直接確認をとったが、彼らに私たちの収支データなどの現状報告を提出しても、受けとりはしたが見ようともしない。彼らが参考にするのは、2年前の農水の統計データのみだ。この古いデータをもとに“このくらいだろう”という予想を立てて乳価交渉に当たっているのが現実だ。彼らは、私たちが出した「最低1㌔当り30円不足している」という要望に対して「それはあり得ない」と否定する。その交渉はしないという。これが組織の現状だが、私たちは黙っているわけにはいかない。



 私たちは今は皆さんと一緒に訴えるしかない。一生産者の立場で訴えられることはこの程度だ。でも、この声が集まればもっと大きくなり、交渉にも反映され、消費者の皆さんにも届くことを願っている。



 そして乳価が上がらない理由の一つに「脱脂粉乳がだぶついている(在庫過剰)」というのが付いてくるが、本当にそうだろうか? 私はそうは思わない。現状、海外からの乳製品は毎年同程度の量が輸入されている。表に出てくるカレント・アクセス(13・7万㌧)だけではなく、その裏にある毎年460万㌧の乳製品輸入は減ることもなく、むしろ年々徐々に増え続けている。つまり需要はある。それでメーカーはもうけている。



 そもそも、私たちが搾った牛乳が余っているといわれるが、この在庫は生産者の手から離れ、買いとったメーカーの持ち物になっている。にもかかわらず、これを盾にして乳価が上げられない構造を作っている。「これだけのものが余っているんだから乳価は上げられない」という理屈だ。この不条理を理解してほしい。



 国が今回出しているリタイア奨励金(3月から乳牛1頭を処分すれば15万円支給)は、本来は継続する生産者に出すべきものではない。本当にリタイアした生産者がもらうべきものだと思う。継続農家がもらうことによって、継続生産者は(生産量が制限され)収入が落ち、さらに苦しむ。殺されもせず、生かされもしない。これが今の現実だ。
(安全安心の国産牛乳を生産する会)




生産抑制のため排水溝に廃棄される牛乳(2月、北海道)

■酪農大国・北海道を襲う未曾有の危機


北海道・十勝酪農法人会会長 小椋幸男  



 北海道と本州の酪農家では少し立場が異なるが、そもそも今の酪農・畜産の構造は、われわれ生産者が作った構造ではない。国が作り上げたものだ。そして今、「乳製品が余っている、余っている」といわれ続け、ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)は乳製品在庫の出口対策として農家に「カネを出せ」といい、3年間続けて生産者は出口対策負担金を拠出している。北海道の酪農家だけで200億円だ。新年度はさらに上乗せで生乳1㌔当り3円50銭を出さなければいけない。すると来年度だけで140億円になる。あわせて340億円もの拠出金を、われわれ北海道の酪農家が拠出している。



 かたや国は、海外から生乳換算で450万㌧の乳製品を輸入し、カレント・アクセス(13・7万㌧)も海外から入れる。こんな不合理をずっと続けている。



 先ほど農水大臣と面談させていただいたが、そのなかで大臣は「水田農家さんも同じようにたいへんだ。苦しいんですよ」ということをいわれる。国会でも同じ答弁だ。このたいへんな状況を作っているのは誰か? 国であり農政だ。それを他人事のように「水田農家もたいへんですよ」という。このような答弁をする大臣にはさっさと辞めてもらわなければいけない。冗談ではない。



 北海道で生産する牛乳は「加工向け乳価」ということで、飲用向けに比べるとかなり安い。昨年11月、メーカーとの交渉で飲用向け乳価は1㌔当り10円上がった。だが、関東生乳販連にはもっと頑張ってもらいたい。関東乳販連で飲用の価格が決まれば、全国一律その金額で決まるからだ。北海道の牛乳は、飲用向けが2割、加工向けが8割なので、プールにすれば2円の値上げにしかならない。期中改定はされないままだ。なぜか? 北海道にある大手3社は期中改定に合意しているにもかかわらず、最大手の乳業メーカーが「今の状況でなぜその要求に応じなければならないのか」ということで交渉のテーブルにも着かないからだ。



 昨年12月8日、ホクレン会長の発表で、新年度は加工向け乳価も10円上がることになったが、それは減産を条件に受け入れてもらったという。今年度5万㌧、来年度9万㌧、北海道だけで合計14万㌧の減産だ。



 消費者の皆さんにも考えてもらいたいのだが、加工向け乳価は4月にならなければ上がらない。にもかかわらず、すでに2月から大手の乳製品の店頭価格は上がっている。これはどういうことか? 要するにメーカーは思う存分にやっている。乳価交渉をすれば彼らは「価格を上げれば消費が落ち込むから上げられない」といって値上げを拒むが、そういいながらメーカーは再値上げ、再々値上げをくり返している。この状況をご理解いただき、どうか消費者の皆さんにも酪農現場の下支えをお願いしたい。(北海道農業法人協会副会長、同協会酪農部会会長、農業生産法人・有限会社ドリームヒル代表)



■奈落に落ちていく仲間を助けられない地獄


 千葉県・酪農家 金谷雅史    



 千葉県内で30頭の搾乳牛で酪農をしている。昨年11月30日に農水省前で声を上げさせてもらったが、依然として酪農の窮状に変化はない。あのとき言ったことが現実になる。スーパーの棚から牛乳がなくなってしまう未来はそう遠くないと感じている。



 今日伝えたいことは、酪農家の心のことだ。私は農家の窮状を訴えることと牛乳の消費拡大を求めて活動しているが、そのなかでいろいろな酪農家の方から声をいただく。「(農水省前での訴えを)見たよ。頑張ってな」とか「応援してるぞ」など、こちらも大変勇気づけられ、また頑張ろうと思う。だが、そうした声とは別に、少なくない酪農家が今思っていることは、「酪農家は減っていい」ということだ。



 現在、生産抑制している需給状況において、さらに生乳生産量を減らそうと酪農業界と農水省が力を合わせて、3月から早期淘汰(牛の処分)に補助金を出す。そんな状況だから、手っ取り早く減産するためには酪農家が離農し、乳牛の数が減ればいいという考えは確かに間違いない。「辞める奴は早く辞めればいい」と酪農家は思ってしまう。離農が加速していることがメディアで報じられているが、いまだに需給ギャップなるものは埋まらず、生産抑制の状況は変わっていない。そしてまた思ってしまう――「酪農家は減っていい」と。



 自分の足場もままならない状況のなかで、仲間がゆっくりと奈落の底へ落ちていく様を見ていて助けられない。それどころか自分はまだ酪農を続けられることに安堵する――この地獄はなんなのだろう? こんなに悲しいことがあるだろうか。



 同業者を蹴落として生き残ることに何の意味があるか。おそらく大きい牧場も小さい牧場もすべての酪農家が同じ気持ちかと思う。そして借入金を増やし、何としても生き残るために、また苦しい状況を作っている。ここにいる酪農家の皆さんが生乳を廃棄していることも知っているが、生産抑制による減産よりも離農による減産の方が多いのではないかと思う。そんな地獄のような状況で辞めていった方々のことを無視して、「抑制による効果で脱脂粉乳の在庫が減ってきた」などと報じられることもあるので、とても心苦しく思っている。



 酪農家は減っていいのだろうか? 酪農家は減ってはいけない。「食料安全保障強化政策大綱」などといって国がこれからの食料確保のために自給率を高めていく指針を決めたのは昨年末だった。その指針で「酪農家は減っていい」となっているのだろうか? そんなわけがない。食料自給率を高めるのなら、一軒でも多くの農家を残さなければいけないのは自明の理だ。そのなかで抜本的な対策を打たない国に対して、すでに信用というものは失墜しているといっても過言ではない。国に対しては引き続き緊急的な対策を求める。



 この地獄を終わらせたいと思っても、毎日大きな変化がないので、声を上げることが虚しくなるときがあるが、まだ頑張っている仲間、多くの酪農家が声を寄せてくださることに感謝し、これからも窮状を伝えること、消費拡大のために邁進していきたい。




酪農家の牛舎(山口県)

■毎日牛乳を棄てる酪農家の苦悩を知ってほしい


北海道士幌町・酪農家  川口太一  



 数年前のNHK朝ドラ「なつぞら」のロケ地になった場所から来た。その北海道で、今どんなことがおこなわれているのかを伝えたい。



 私の牧場では250頭ほど搾乳しているが、これまでの減産(生産抑制)に続き、10月からはさらに5万㌧減産ということで、減産の勢いがさらに強くなった。ある新聞の取材に応じて、私の牧場での生乳廃棄のシーンが報じられると、「お前は何をやっているのか」「なぜそんなことをするのか」とさんざんに叩かれた。でも私は「違うよ。この窮状は訴えないといけないよ」と答えている。消費者の皆さんにも訴えなければいけない。現場では、毎日1㌧ほどの牛乳を捨てている。約10万円分だ。それが今月、来月と続くわけだ。



 さらに子牛の値段がゴミのような価格になり、一時は缶コーヒーと同じ値段にまでなった。十勝は明日もマイナス20度。こんなに寒いなかでも、子牛が生まれると牛舎には湯気が濛々と立ち上がるなか、親牛が子牛をなめてやる。まさに命が誕生する瞬間だ。



 だが今現場では、その生まれてきた子牛を薬殺している。市場に出荷しても1頭500円、手数料を引けばマイナスだ。持って帰って少し大きくなるのを待てば、毎日エサ代が数千円かかり、調子が悪くなれば治療費が1万円。とても農家は持たない。だから薬殺がおこなわれている。生まれたばかりの子牛が1回も母牛のミルクを飲まされないで、親牛の前で、生産者の前で、たった5CCの消毒液(注射)によって安らかに眠る。これが今現実におこなわれているのが北海道だ。



 店頭では乳価が上がった。消費者の皆さんには高い負担で牛乳1本買っていただかなければならなくなった。35円、50円上がり、月にして1000円上がったかもしれない。だが今や“物価の優等生”になったのは牛乳だ。ご存じの通り、卵も納豆もすべて信じられないくらい値段が上がった。これだけはお伝えしたい。今日と同じように明日も一杯の牛乳を飲んでほしい。そうやって買い支えていただくことが酪農家を救う唯一の道かと思う。国は助けてくれない。



 本来、私はこんなところでしゃべる人間ではない。今日も来るのを迷ったが、なんとしても北海道の窮状、生産者の苦しみを訴えなければいけない。廃棄は罪だ。やってはいけない。農家はただ生産目標(減産)のためにやっているに過ぎないのだ。そして明日も、おそらく集荷もされずに現場で薬殺される子牛が後を絶たないだろうと思う。



 新年度はさらに減産だ。おそらくもっと厳しいと思う。すべてよくなる方向は見えない。どうか消費者の皆さんにご理解をいただき、今、灯が消えようとしている酪農家をなんとか支えていただきたい。(十勝酪農法人会)



■酪農地帯は町そのものが存亡の危機に


北海道別海町・酪農家  岩崎和雄  



 別海町は、酪農が基幹産業で畑作はほとんどない。酪農がダメになれば町自体が消滅していくことになる。それでなくても今次々に離農が続いているため、人口がどんどん減り始めている。たいへんな状況だ。



 別海町は町村単位では全国で一番大きな酪農地帯だと思うが、この酪農地帯でも後継者が少しずつ減り、だんだん酪農家が減る傾向にあったが、それに加えて今回の畜産危機では、エサ代が上がり、他の資材も本当に上がっている。それが酪農家を苦しめており、昨年度末はかなりの農家がセーフティネット資金を借りざるを得なくなった。農協もそれを推進した。



 この状態で推移すれば、今年度は酪農家の状況はもっと悪くなる。良くなる見通しがないということになれば、廃業があいつぐことになる。



 バター、脱脂粉乳、クリームなどは、北海道の生産量が多い。飲用乳の出荷はそれほどないが、どこのコンビニでも売っているスイーツなどで使われているクリームはなかなか輸入はできず、そういうものもどんどん減っていくだろう。



 豊かな食生活のためには、酪農が日本に残り、農業で豊かな生活ができることが大切だと思う。消費者の皆さんにとっても、本当は乳価が上がっても買えるくらいの所得が保障されなければいけない。満足に買えないような所得で、乳価だけが上がって済む問題ではない。みんなで力を合わせて国産牛乳を守っていきたい。(北海道農民連釧根地区協議会議長)
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/25931

  • 名前: E-mail(省略可):

Copyright © 1999- FC2, inc All Rights Reserved.