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アメリカとマルクス - 内田樹の研究室

1:777 :

2022/11/13 (Sun) 20:23:20

アメリカとマルクス - 内田樹の研究室
2022-11-13
http://blog.tatsuru.com/2022/11/13_1041.html

『週刊金曜日』に隔週で1500字の連載エッセイを書いている。けっこうな量がたまったので、ブログにまとめてアップすることにした。時系列になっていないけれど、ご海容願いたい。

 アメリカ論を書いている。一章を割いて「マルクスとアメリカ」を論じた。ご存じない方も多いと思うが、マルクスとアメリカの間には浅からぬ因縁がある。
 19世紀のアメリカには「ホームステッド法」というものがあった。一定期間公有地で耕作に従事すると土地を無償で与えるという法律である。自営農になることを夢見て多くの人がアメリカに渡り、西部開拓の推進力になった。マルクスはこれを「コミュニズムの先駆的実践」と高く評価していた。マルクス自身も(果たせなかったが)テキサスに移民するという計画を立てていた。
 アメリカにはマルクス知人友人が多くいた。1848年の市民革命失敗の後に、官憲の追跡を逃れて多くの社会主義者・自由主義者たちがアメリカに渡ったからである。彼らは「48年世代(フォーティ・エイターズ)」と呼ばれた。
 その中にヨーゼフ・ヴァイデマイヤーというプロシャの元軍人がいた。『新ライン新聞』以来のマルクス、エンゲルスの友人で、ニューヨークで雑誌を創刊した。その少し前にフランスではナポレオン三世のクーデタが起きた。それについて「いったいどういう歴史的条件下で起きた事件なのか解説して欲しい」と旧友マルクスに寄稿を求めた。マルクスが書き送ったのが『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』である。
「ロンドンに切れ味のよい政治記事を書く男がいる」ということが評判になり、当時ニューヨーク最大の発行部数を誇った『ニューヨーク・トリビューン』の編集長ホレス・グリーリーがロンドンのマルクスに特派員のポストをオファーした。経済的に窮迫していたマルクスはこの申し出を受け入れ、1852年から61年までの10年間に400本を超える記事を書き送った。いくつかは社説として掲載された。扱ったテーマは英国のインド支配、アヘン戦争、アメリカの奴隷制度などなど。ニューヨークの知識人たちは南北戦争直前の10年間、ほぼ10日に1本ペースでマルクスの状況分析を読んでいたのである。あまり言う人はいないが、実はマルクスは南北戦争前の北部の世論形成に深く関与していたのである。
 戦争が始まると、奴隷解放を社会的公正の実現と評価する「48年世代」は当然北軍に身を投じた。64年のリンカーン再選の時、第一インターナショナルは祝電を送り、リンカーンはこれに「アメリカ合衆国はヨーロッパの労働者たちの支援の言葉から闘い続けるための新たな勇気を得ました」という謝辞を返している。これだけの縁がありながら、今アメリカ政治を論じる人たちのうちでマルクスの関与に言及する人はほとんどいない。二度にわたる「赤狩り」(一度目はミチェル・パーマーによる、二度目はジョセフ・マッカーシによる)によって、アメリカ史からマルクスの痕跡はあとかたもなく拭い去られてしまったからである。
 先日西部劇映画の政治性を検証するというテーマで授業をした。その時ジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを射った男』を観た。東部のロースクールを出たばかりの青年弁護士ランス(ジェームズ・スチュアート)が西部でタフな野生の男(ジョン・ウェイン)と出会って、成長を遂げるという物語である。映画の中に「どうしてあんたみたいなインテリが西部に来たんだ」と問われて、ランスが「ホレス・グリーリーの『青年よ、西部をめざせ』というスローガンに感化されて」と答える場面があった。マルクスをアメリカに呼び込んだグリーリーは「リバティ・バランスを射った男」を西部に送り出してもいたのである。「アメリカは深い」と思わず嘆息を洩らした。

(2022-11-13 10:41)
http://blog.tatsuru.com/2022/11/13_1041.html
2:777 :

2022/11/13 (Sun) 20:27:02

比較共産党論のすすめ - 内田樹の研究室
2022-11-13
http://blog.tatsuru.com/2022/11/13_1043.html

 以前、日本共産党から「党名を変更すべきだという声がありますが、どうお考えですか」というアンケートに回答を求められたことがある。私は「改名すべきではない」と答えた。私の友人たちの中にも実利的な理由から「共産党なんていう古めかしい党名はもう捨てた方がいい」という意見の人もいる。でも、改名しても党はマルクス主義政党であることを止めないだろうし、メディアはその後も「〇〇党(旧共産党)」という表記を続けるだろう。果たしてどれほどの「実利」があるだろうか。
 党名を維持した方がいいと私が思うのは、党名を保つことで「比較共産党史」という興味深い研究領域が成立すると思うからである。1917年のロシア革命の後、世界中に共産党ができた。ドイツ共産党、フランス共産党、イタリア共産党、アメリカ共産党...アジアでも中国共産党、インドネシア共産党、日本共産党、朝鮮共産党、ベトナム共産党などが次々と創建された。それからおよそ100年を経て、それぞれの党の消長を見ると、その国の固有の政治風土が際立つように私には思われるのである。
 19世紀のアメリカが世界の社会主義運動の一大拠点であったことはあまり知られていない。1852年から61年までカール・マルクスは当時ニューヨークで最大部数を誇った『ニューヨーク・トリビューン』のロンドン特派員として400本を超える記事を寄稿していたリンカーンの再選の時に第一インターナショナルは祝電を送り、リンカーンも返礼をしている。アメリカに「草の根のコミュニズム」が育つ可能性はその時点では存在したのだが、20世紀に創建されたアメリカ共産党はコミンテルンに頤使される硬直した組織となり、大戦間期に知識人にいくばくかの支持を得た以外にアメリカ政治史に足跡らしいものは残していない。
 イギリス共産党はかつてはジョージ・オーウェルに『1984』を書かせるほどに強力なスターリン主義政党だったが、今は見る影もない。フランス共産党はレジスタンスの中核をなし、一時期はドゴール将軍にとって国内最大のライバルだったが、「モスクワの長女」と称されたソ連追随が嫌われて、これも今や存亡の瀬戸際にある。インドネシア共産党はかつては一大勢力だったが、1965年スハルトによる大弾圧で壊滅した。朝鮮共産党は離合集散を繰り返しながら、激しい弾圧を生き抜いたが、最後は北朝鮮の朝鮮労働党に収斂した。今マルクスが生き返って習近平の中国共産党を見てなんと評するか私には想像もつかない。
 その中にあって日本共産党は例外的に「穏健なマルクス主義政党」として生き延びている。  
 以前、新華社からのインタビューで「どうして日本ではマルクス主義が市民社会に許容されているのか」と訊かれたことがある。私は日本では、マルクスの非政治的な読みが許されていたからだと思うと答えた。マルクスを読むことは、本邦では久しく知的成熟の一階梯だと信じられてきた。マルクスを読んだあと天皇主義者になった者も仏教徒になったものもビジネスマンになった者もいる。それでも、青春の一時期にマルクスを読んだことは彼らに何らかの屈折を残した。
 日本人は世界の共産党の興亡とはかかわりなくマルクスを「教養書」として読んできた。その固有の歴史的条件が日本共産党の今のかたちに影響を与えていると私は思う。
 同じ名前を持つ政党のそれぞれ相貌を異にする歴史を照合することで私たちは諸国民の政治的傾向を知れるような気がするのである。

(2022-11-13 10:43)
http://blog.tatsuru.com/2022/11/13_1043.html
3:777 :

2023/10/15 (Sun) 09:08:27

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パリ・コミューンについて - 内田樹の研究室 2019-03-05
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