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「小学生の娘が待つ家にコンドームを買って帰り…」家族を引き裂いた義父の娘への性暴力

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2023/07/28 (Fri) 15:22:34

「小学生の娘が待つ家にコンドームを買って帰り…」家族を引き裂いた義父の娘への性暴力と親子の再生
高木 瑞穂 2023/01/14
https://bunshun.jp/articles/-/60011

 カメラに向かって10代前半と思しき少女が笑顔を浮かべる。少女の名前は美香(仮名)という。彼女のTシャツの裾を右手で掴んだ弟の光輝(仮名)が左手でつくった不格好なピースサインが初々しい。父親の晃(仮名)と母親の夏菜子(仮名)は、2人の子供をはさむように立って笑っている。

 1枚の写真におさまった家族4人は、海に近いある地方の都市で幸せに暮らしていた。しかし今はもう、家族の笑顔が揃うことは叶わない。

家族4人で食卓を囲んだ幸せな日々
 2007年、27歳の晃と30歳の夏菜子は地元のクラブで知り合った。お互い音楽が好きで、特にヒップホップを好んで聞いた。年齢の差はあったものの、共通の趣味で盛り上がった2人が親しい仲になるのに時間はかからなかったという。結婚したのは2012年。夏菜子が前夫との間にもうけた一人娘の美香は、当時小学3年生になっていた。

 夫婦になった2人が新しい子供を授かるのに時間はかからなかった。娘の美香が11歳になった2014年、弟の光輝が生まれる。家族が増えたのを機に、一家は晃の実家にほど近い一軒家へと移り住むことになった。

 実家の両親は晃を可愛がっていた。若い頃から家業を手伝ってくれる良き息子だと思っていた。しかし息子は一歩外に出れば、それなりの“ヤンチャ”として地元では知られた存在だった。両手が後ろに回るようなことこそないものの、上半身のかなりの部分に刺青が入っている。悪友たちからは“ヤンチャ”であると同時に“女たらし”としても一目置かれていたという。

 それでも親からすれば子供はかわいい。晃たち一家が新しく住み始めた家も、実家が用意したものだ。朝と晩、4人で食卓を囲むのが一家の約束事――ありふれた「幸せの形」は、夏菜子が強く望んだものだった。

 夏菜子の人生は必ずしも幸せなものではなかった。子供の頃には育ての親から虐待もあった。生家から逃げ出すようにしてつかまえた男との結婚も、うまくいかなかった。ところが今の生活はどうだ。可愛い2人の子供がいる。“ヤンチャ”で通っていたという夫はすっかり落ち着いてちゃんと仕事をしているし、子供たちを溺愛すらしている。夏菜子は幸福感に包まれていた。必ずしも裕福ではない生活を落ち着けるため、長男を出産したあとすぐにパート勤めをはじめた。夏菜子にとってこの幸せを手放すことなど考えられないことだった。


夫の逮捕理由は「監護者性交等罪」
  夏菜子は2020年10月を忘れない。晃が「監護者性交等罪」で逮捕された日だ。夏菜子は警察に告げられる。晃の「性交」相手が16歳になる娘の美香だということを。夏菜子には不思議な納得感があった。夫が逮捕されるひと月前、9月に夏菜子のもとには書状が届いていた。差出人は児童相談所。書面は美香が児相で保護されていることを告げる内容だった。


「夫がしでかしたことではありますが、娘が日々滲ませていたはずの『助けて』のサインに気づくことができなかったことを今でも強く後悔しています」

 かつての4人家族を振り返る夏菜子の目には、大粒の涙が浮いていた。

「パートや下の子の世話という日常に追われて、娘に向き合うことができていませんでした。なにより、夫がまさか娘に手を出すなんて想像したこともありませんでした。愛していたから、盲目になっていたから周りが見えないのも仕方ないと言ってくださる方もいますが……」

 晃の逮捕の日から、夏菜子は自分を責め続けてきた。

「もっと早くに気づいてあげられればよかった。あの時もし気づいていたら、あの場所でもし気づいていたら。そのことばかり考えています」

 夏菜子の目に映っていた幸福な家族の姿は、彼女の目の届かないところで確かに壊れ始めていた。最初のひずみは光輝が生まれてすぐの2014年の春に生じた。光輝は軽度の知的障害を持って生まれてきた。日常生活に支障はないものの、身体にもわずかな障害を負っている。

「どうしても光輝のほうにばかり注意が向いてしまっていました。娘はまだ11歳でしたが、母親の私が忙しそうにしているのを敏感に感じ取ったんでしょうね。本当に手のかからない子供でしたし、私もしっかりした美香に甘えていたのかもしれません」

 生まれて間もない時期の光輝には、手術が必要なことがたびたびあった。1週間程度の入院で済むものだったが、幼い息子に付き添うために夏菜子は病院で寝泊まりする必要に迫られた。母親のいない家には、晃と美香だけが残された。親が子に与える慈しみとはほど遠い肌の触れあいをきっかけにして、義父の連れ子に対するおぞましい暴力はこの頃から始まった。

「警察の調べでわかったことですが、私を病院に送ってくれた帰り道に寄ったコンビニエンスストアで、夫はコンドームを買っていたそうです。家に帰っても、小学生の美香が待っているだけなのに……」


娘はSOSのサインを出し続けていた
 光輝が退院し、家族4人で過ごす時間が戻って来た。夏菜子の追い求めていた幸せな家庭は営まれつづける。だが、晃の美香に対する性暴力は止まっていなかった。病弱な息子と一緒に1階で寝起きする夏菜子の目を盗み、2階の子供部屋と寝室で晃の凶行は続いていた。

「美香は中学に上がった2016年頃から学校を休みがちになりました。一日中自分の部屋にこもったまま出てこようとしないんです。どうして学校に行かないのか聞いても、なにも答えませんでした。こんな幸せな家庭で育っているこの子がなぜ不登校になってしまったのか。何も分かっていなかった私は、怒りや混乱で声を荒げて美香を叱りつけることがありました」

  やがて美香はいっさい登校しなくなる。

「美香の部屋が日に日にすさんでいくんです。足の踏み場もないほどに荷物が散乱して、まるでドキュメンタリー番組で見るような汚部屋になっていました。いま思えばですが、あの散らかし方は美香の自己防衛だったのかなとも思うんです。夫はもともと潔癖症なところがあったので、子供部屋に入ってくる気をなくすよう、美香が考えてやったんじゃないかって……」

 だが、当時の夏菜子がそんなことを想像できるはずもない。我が子がダメになっていくのは自分のしつけが悪かったと思い込み、幸せな家族の形を立て直そうと、また美香に怒声を浴びせる日々が続いた。

 部屋を散らかすという美香の抵抗は、母親の理解は得られなかったが奏功もしていた。汚部屋を嫌った晃が子供部屋に忍び込むことがなくなったのである。美香に手を出すのは決まって自分の寝室になった。そうなると、自然、凶行の回数は少なくなる。

写真はイメージです ©iStock.com
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「どこにも居場所はないし、死ぬしかなかった」
 自分で自分の身を守れることを美香は学ぶ。義務教育の期間中は消極的な抵抗しかできなかったが、高校生になればアルバイトができる。金を貯めて、家を出よう。そう決めた。期するものが見定まった美香は、2019年、高校生になると同時に引きこもりを脱し、自宅の近所のスーパーマーケットでアルバイトを始めた。

  それでも、晃は美香との性交を止めなかった。高校卒業まで待てないと考えた美香は、家を飛び出した。身を寄せたのは、晃の実家だった。実の息子が孫におぞましい行いをしていることなど知る由もない祖父母は、美香を快く受け入れた。

 逃げ出した祖父母の家で美香は悩み続けた。義父の手から逃れるためにできることはなにか。卒業までの時間、今までどおり我慢を続けるか。それはもはや、美香にとって受け入れがたい考えだった。ではどうする。

「娘は、死ぬしかない、と考えるまでに追い詰められていました。近所の山から身を投げようとしたところ、たまたま近くに車を停めていた男性がそれを見つけ、あわてて美香の腕を掴んでくださったんです。あの日はひどい雨でした。連絡をいただいた私はすぐに現場に行って、美香を抱きしめました」

 後に美香はこう述懐している。

「当時のお母さんに、私がどういう目に遭っているかを話してもきっと信じてもらえないと思っていました。あの男は狂ってました。どこにも居場所はないし、死ぬしかなかった。私が誰にも知られないところで しねば、お母さんや光輝、おじいちゃんやおばあちゃん達は皆きっと幸せでいられる。誰にも迷惑のかからない場所で死のうと強く思ってました」

バラバラになった「幸せな家庭」
 死にきれなかった美香を救ったのは、通っていた高校の教師だった。卒業後はどうするか、進路の相談に親身に乗ってくれた担任教師だけには心を許すことができた。母や祖父母には到底明かすことのできない、義父からの性的虐待を打ち明けられた。とんでもないことを聞かされた教師は、すぐにしかるべき機関とともに対応に乗り出す。そして、美香は児相に保護された。

 それから数週間、なぜ美香が児相に保護されたのか、夏菜子がいくら問い合わせても理由は教えてもらえなかった。そして保護から1ヶ月が経とうとしたとき、夏菜子と晃は児相から呼び出しを受ける。

「そこで初めて、美香が晃からどんなおぞましいことをされていたのかを知らされました。正直に言えば私はまだどこか半信半疑でした。現実感がなかったんです。心のどこかで夫がそんな真似をするはずがないと思っていましたし、娘がそんな目に遭っているなんて信じたくありませんでした。でももしこれが真実なら、夫を殺してやりたいと思いました」

 夏菜子はその場で半狂乱になったという。だが、そんな彼女に児相の職員は予期せぬ言葉を投げかける。「美香ちゃんが、お母さんと光輝くんの3人で暮らしたいと言っています。どうなさいますか?」

「家族3人でやり直したい」と言ってくれた娘
 晃の逮捕から2週間、呪われた家を飛び出しシェルターに避難していた夏菜子と光輝のもとに、満面の笑みで美香が帰ってきた。

「娘は憑き物が落ちたような顔をしていました。そこで、児相や警察でも聞かされていなかった話を語ってくれました。夫の裁判の冒頭陳述や被告人質問、裁判書類で次々と真実が明らかになりました。同時に、過去に感じていた違和感や娘の行動の理由が、線で繋がっていったんです」

  逮捕された晃の裁判が始まった。検察が次々と挙げる夫の具体的な凶行は、否応なく夏菜子を現実に引き戻した。私の夫は人間じゃない、鬼畜だと思った。

写真はイメージです ⒸAFLO
写真はイメージです ⒸAFLO
「娘が『もう一度、お母さんと弟と、家族3人でやり直したい』と言ってくれたことで完全に目が覚めました」

 2021年10月、晃に言い渡された判決は懲役6年。未決算入250日を引いた期間、夏菜子の夫は獄中で過ごすことになる。

 夏菜子と美香と光輝は、いま、新しい土地で新たな生活を始めている。美香は専門学校に進学した。友人や恋人もできたという。光輝の養護学級への通学もはじまっている。

 そして、母と娘は事件のことについて、率直に語り合うようになった。互いが負った傷をいやすように。




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