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アシュケナージ系ユダヤ人の歴史

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2022/09/09 (Fri) 05:46:08

アシュケナージ系ユダヤ人の歴史

雑記帳 2022年09月07日
中世のアシュケナージ系ユダヤ人のゲノムデータ
https://sicambre.seesaa.net/article/202209article_7.html

 中世のアシュケナージ系ユダヤ人のゲノムデータを報告した研究(Brace et al., 2022)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、イギリスのノリッジ(Norwich)遺跡の中世の井戸の底で発掘された6個体のゲノム配列データを報告します。これらの遺骸の改定放射性炭素年代分析は、歴史的に確認された1190年2月6日の反ユダヤ主義暴力事件の一部だったことと一致します。これら6個体のうち4個体は密接に関連しており、6個体は全て現代のアシュケナージ系ユダヤ人と強い遺伝的類似性を有していました。

 アシュケナージ系ユダヤ人集団において遺伝性疾患と関連する4個のアレル(対立遺伝子)が見つかり、赤毛も含めて色素沈着の特徴における差異が推測されました。模擬実験では、アシュケナージと関連する遺伝性疾患のアレルは以前に仮定されていたよりも数世紀早くすでにかなりの頻度だった、と示唆されます。これらの調査結果は、重要な歴史的犯罪、アシュケナージの人口史、現代のユダヤ人集団と関連する遺伝性疾患の起源への新たな洞察を提供します。


●アシュケナージ系ユダヤ人の歴史

 2004年にイギリスのノリッジ中部で建設作業員がチャペルフィールド(Chapelfield)ショッピングセンター開発の一環として土地を掘削中に、残土からヒトの骨格要素を回収しました。その後の考古学的調査により、少なくとも17人の混在した遺骸が含まれている可能性のある井戸が、発見されて発掘されました。遺骸の層序的位置、その完全性、関節接合の状態から、これらの遺骸は全てその死後に単一事象で堆積した、と示唆されました。亜成体の多さと聖域外埋葬の珍しい位置から、これらの遺骸は飢饉か病気か大量殺戮など大量死の犠牲者だったかもしれない、と示唆されました。

 井戸から出土した土器片は、類型学的に12~14世紀と年代測定され、骨格遺骸に関する最初の2つの放射性炭素年代測定により11~12世紀に位置づけられました。この期間内でのノリッジにおける最も顕著な歴史的に証明された大量死は、1190年にユダヤ人共同体の構成員が第3回十字軍の開始により突然起きた反ユダヤ主義暴動のさいに殺害されたことですが、殺害された個体数は不明です。ノリッジは中世反ユダヤ主義の歴史におけるそれ以前の注目すべき出来事の舞台で、1144年には、ノリッジのウィリアムの家族が、地元のユダヤ人がウィリアムを殺したと主張し、それがマンモス(Monmouth)のトーマスにより取り上げられ、血の名誉棄損神話の最初の記録された実施実子となりました。これは、現在まで続く反ユダヤ主義的陰謀論の始まりを表しています。チャペルフィールドの井戸遺跡で見つかった遺骸が反ユダヤ主義暴力の犠牲者だった、との可能性は、この町の中世ユダヤ人地区のすぐ南となる遺跡の位置によってさらに裏づけられます。しかし、ヒト遺骸を特定の歴史的事象もしくは集団と関連づける追加の考古学的証拠はありませんでした。中世盛期(1000~1300年頃)に、ノリッジでは大規模な暴力が多数勃発したので、これらの個体がアシュケナージ系ユダヤ人の子孫だった、との仮説の検証には追加のデータが必要です。

 ユダヤ教は宗教的および文化的に共有された帰属意識で、内婚慣行と世界規模の共同体独特の離散(ディアスポラ)の歴史、とくにレヴァント起源と過去2500年にわたる複雑な歴史があります。現在のアシュケナージは、おもにヨーロッパ北部および東部に居住していた歴史を有する中世ユダヤ人集団の子孫です。結果として、アシュケナージは独特な祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有しており(関連記事)、同じ地域に暮らしていたユダヤ人と非ユダヤ人個体は、遺伝的差異の特徴的なパターンを示す可能性が高いでしょう。

 アシュケナージ系ユダヤ人集団における遺伝性障害は、かなりの医学的研究の焦点とされてきており、現在では危険性軽減のための遺伝的検診が一般的になっています。アシュケナージ系ユダヤ人の有病率は一般的に、高い内婚制と組み合わさったアシュケナージ集団のボトルネック(瓶首効果)における強い遺伝的浮動のためとされていますが、異型接合体の優位性など他の過程が提案されてきました。人口ボトルネックの候補には、70年における第二神殿の破壊に続く離散段階、中世ヨーロッパ北部におけるアシュケナージ共同体の形成、十字軍から起きた反ユダヤ主義的迫害、黒死病に対する根拠のない報復、15~18世紀におけての急速な人口増加に先行するヨーロッパ西部および中央部からヨーロッパ東部への移動が含まれます。

 中世もしくはそれ以前の既知のユダヤ人個体のゲノムは利用可能ではなく、それはおもに、ユダヤ人遺骸の発掘と科学的検証が禁止されているからです。そうしたデータは、ユダヤ人集団の移住と混合の歴史について情報を与えることができます。さらに、あらゆる病原性多様体の存在は、アシュケナージ関連の遺伝性疾患の起源と拡大への貴重な手がかりを提供するでしょう。本論文は、チャペルフィールド個体群の放射性炭素年代測定と遺伝学的分析の結果を調査し、この個体群が誰でいつ死亡したのか、ということと、その死と埋葬の性質をよりよく確証し、アシュケナージ集団の歴史と遺伝学への潜在的なより広い意味を特定します。


●放射性炭素年代測定

 以前に刊行されたチャペルフィールドの人類遺骸の2つの放射性炭素年代は、ヒト遺骸の直接的標本抽出により得られたさらに3点の放射性炭素年代により補足されました。5点の放射性炭素年代は全て相互に一致したので、単一の事象として較正され、モデル化されました。その結果、これらの遺骸の年代は、1161~1216年(95%信頼区間)もしくは1165~1207年(68%信頼区間)と示唆されました。この年代は、1190年にノリッジで起きた唯一の歴史的に証明された反ユダヤ主義的虐殺と一致します(図1)。しかし、この年代範囲は1174年のいわゆる大反乱も含んでおり、この時、多くの人々がノーフォーク伯爵ヒュー・ビゴッド(Hugh Bigod)による略奪中に殺されました。以下は本論文の図1です。
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●古代DNA

 25点の骨格要素が調べられ、内在性DNA含有量(4.5%超)に基づいて6個体から9点のライブラリが、より高い網羅率の配列決定のために選択されました。その結果、1個体あたりの常染色体平均網羅率(平均読み取り深度)は0.16~13.81倍となり、6個体の平均読み取り長は68塩基対でした。古代DNA認証のための確立した手法に加えて、ラムダ媒介変数を用いてDNA分子の分解が調べられ、真の断片長が推定され、古代ゲノムの堆積的に変化した区画と比較されました。その結果、配列決定されたチャペルフィールド標本間でDNA断片化に有意な差異が見つかり、これは堆積史では予測できない、と示唆されました。


●家族関係

 対での関連計数と要約統計に基づいて、チャペルフィールド集団の家族関係が推測されました。その結果、3個体が同父同母の姉妹と推測されました。堆積Sk 75のSB606個体は10~15歳、堆積Sk 78のSB671個体は若い成人、堆積69のSB605個体は5~10歳と推定されています。この3人姉妹は、同じミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)H5c2を有しています。さらに、SB696個体はこの集団とより遠い関係にあるようで、SB676個体は次にSB696個体と遠い関係にあります。

 個体SB604は、多くの染色体の大半を構成する長い複数の同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)を有しており(図2)、近交係数(0.21)は1親等の組み合わせの子供で予測されるものに近くなっています。この個体で特定されたひじょうに長い最大で約40 cM(センチモルガン)となるROHは、ごく最近の近親交配事象を示唆します。さらに、個体SB676とSB605における長いROHの割合は、両親が2親等の親族関係にあることと一致します。観察されたROHが低い有効人口規模により完全に説明できる可能性は除外されます。それは、ROHの長さの分布が短いROHの過剰を示すと予測されるからで、これは観察されませんでした(図2)。以下は本論文の図2です。
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●遺伝的祖先系統

 現在のアシュケナージはおもに、ヨーロッパ北西部のさまざまな地域に、その後、中世を通じてヨーロッパ中央部および東部に居住した離散の子孫です。そのためアシュケナージは、中世イングランドのユダヤ人個体群と遺伝的に最も類似していると予測される、現在の人口集団を表しています。さらに、歴史的資料から、ノリッジのユダヤ人共同体は、1066年以後にウィリアム征服王によりイングランドに招かれた、ノルマンディー公国のルーアン(Rouen)のアシュケナージ系ユダヤ人の子孫だった、と示唆されます。したがって、主成分分析(PCA)を用いてチャペルフィールド個体群の遺伝的類似性が調べられ(図3)、現代のアシュケナージの祖先系統がチャペルフィールド個体群によってよりよく説明されるか、あるいは中東やヨーロッパ南部および東部など古代の混合構成要素の代理として機能する現代の人口集団の混合なのか、検証されました。

 qpAdmを用いて、可能性のある供給源としてチャペルフィールド個体群とトルコのユダヤ人とシチリア島人とフランス人とポーランド人で現代のアシュケナージの祖先系統の割合が推定され、100%チャペルフィールド個体群であると最良にモデル化される、と分かりました。チャペルフィールド個体群の祖先系統は現代の人口集団の混合としてもモデル化され、仮定的な祖先系統構成要素の代理として、トルコのユダヤ人とシチリア島人とフランス人とポーランド人が用いられました。その結果、それぞれ混合の割合は、33%、67%、0%、0%でした。これらの結果は、チャペルフィールド個体群以後のヨーロッパ東部祖先系統の遺伝子移入を位置づける、以前の人口統計学的モデルと一致します。以下は本論文の図3です。
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 チャペルフィールドの全個体の片親性遺伝標識(母系のmtDNAと父系のY染色体)ハプログループの呼び出しも、近東集団との遺伝的類似性、および場合によるとアシュケナージ系ユダヤ人集団との遺伝的類似性も裏づけます。具体的には、アシュケナージ系ユダヤ人はmtHg-H5c2、とくに3姉妹(SB605とSB606とSB671)で観察された16304での復帰変異について、現代の保有者の大半を形成します。個体SB676のY染色体ハプログループ(YHg)はセム語話者において一般的で、その上位系統がアシュケナージの間で11.7%の頻度を示す、E1b1b1b2a1a(M34)内のE1b1b1b2a1b1aです。同様に、SB604(YHg-J1a2a1a2d2b2)とSB696(YHg-T1a1a)の上位系統は、とくにレヴァントの祖先系統と関連しています(関連記事)。

 ゲノムの類似性を時間的に解決するため、現代の人口集団の多様な一式の系統から推測されたアレル(対立遺伝子)年代に基づくColateを用いて、合着(合祖)率が推定されました。任意交配人口モデルでは、集団内の合着率は有効人口規模と反比例する、と予測されます。集団間では、その合着率は合着事象に先行する遺伝子流動強度の関数として解釈できます。したがって、その合着率は、人口規模の歴史と混合のような人口統計学的過程について情報をもたらします。

 紀元前119年~紀元後1140年にほぼ対応する時代(図4A)では、ヨーロッパ人は現代のアシュケナージ系ユダヤ人および中東個体群と差異の第1軸で分離しており、チャペルフィールド個体群はその間に位置するものの、ヨーロッパ人により近い、と分かりました。第2軸は、現代のアシュケナージ系ユダヤ人を区別し、チャペルフィールド個体群の区別の程度は小さくなります。図4Bは、集団間および集団内の平均的な対での合着率(apCR)を示すことにより、同じ対での合着率を要約します。集団間のapCRがMDS(多次元尺度構成法)図の第1軸のパターンを反映している一方で、集団内のapCRは現代のアシュケナージ系ユダヤ人で最高となり、それに続くのがチャペルフィールド個体群で、MDS図の第2軸で示される際を反映している、とみなせます。チャペルフィールド個体群は、現代のアシュケナージ系ユダヤ人と最高の集団間apCRを示しました。図4Cに示されている紀元前3278~紀元前119年までにほぼ対応するより古い期間のapCRの相対的順位は、後の期間と類似しており、一つの違いは、アシュケナージ系ユダヤ人とチャペルフィールド個体群における集団内apCRがほぼ等しいことです。以下は本論文の図4です。
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 これらのパターンは、以下の4点を示すものとして解釈されます。第一に、チャペルフィールド個体群と現代のアシュケナージ系ユダヤ人との間のある程度の人口連続性で、qpAdmの結果と一致します。第二に、アシュケナージ系ユダヤ人は近東とヨーロッパの人口集団の混合で、それは以前の研究でも示されており、qpAdmの結果と一致します。第三に、アシュケナージ系ユダヤ人とチャペルフィールド個体群は中東全域やヨーロッパ全域の人口集団よりも有効人口規模が小さく、1140年以前のアシュケナージにおける人口ボトルネックの可能性を推測するのに充分ではないものの、一致します。第四に、現代のアシュケナージ系ユダヤ人は1140年以後の追加のボトルネックもしくは内婚の増加を経ました。


●表現型と遺伝性疾患

 チャペルフィールドの3個体は、HirisPlex色素沈着表現型推論の閾値を超えるのに充分な遺伝子型決定された一塩基多型(SNP)を有しています。そのうち2個体は茶色の目をしており、1個体(SB605)は「暗い」髪の色、1個体(SB676)は「明るい」髪の色だったのに対して、0~3歳の少年(SB604)は青色の目と赤毛だと推測され、赤毛はヨーロッパのユダヤ人の歴史的な固定観念と関連づけられています。

 アシュケナージ系ユダヤ人の遺伝性疾患と関連する多様体について、チャペルフィールドの6個体が調べられました。先行研究では、アシュケナージ系ユダヤ人の特定の遺伝性疾患の高頻度はおもに人口ボトルネックにおける浮動の高率が原因とされ、1100~1400年頃、900年頃、1300年頃、30世代前など、さまざまな仮説が提示されました。チャペルフィールド個体群はこれら仮定的なボトルネックの前か開始期に暮らしていたので、現代のアシュケナージと関連する疾患のアレルが、チャペルフィールド個体群の属する人口集団で比較的高頻度に達していた、とは予測されません。むしろ、この時点では、アシュケナージ集団は現代のヨーロッパ人集団により典型的な疾患アレル頻度を有していた、と予測されます。

 検討された159ヶ所のアシュケナージ関連の遺伝性疾患の遺伝子座全体で、チャペルフィールドの6個体について合計4755の読み取りが蓄積されました。これらのうち、35遺伝子座の45の読み取りは遺伝性疾患アレルで、1ヶ所の遺伝子座が4つの読み取り、2ヶ所の遺伝子座が3つの読み取り、3ヶ所の遺伝子座が2つの読み取り、29ヶ所の遺伝子座が1つの読み取りを有しています。しかし重要なのは、これらの読み取りの一部は第1種の過誤で、疾患アレルの存在を誤って示唆することへの注意です。したがって、(非フィンランド人の)現代ヨーロッパと現代のアシュケナジーの両人口集団のアレル頻度を想定するデータセットがgnomADデータベースで模擬実験され、疾患アレルの読み取りがさまざまな読み取り過誤率で本論文の標本において予測されるはずの数が調べられました。

 試行回数として観察された合計読み取り深度を用いて、各個体の各遺伝子座で、多項分布からアデニン(A)とシトシン(C)とグアニン(G)とチミン(T)のヌクレオチドが標本抽出されました。読み取り過誤を数えるため、読み取り過誤媒介変数α(全遺伝子座で一定と仮定されます)が導入され、gnomADアレル頻度が調整され、それが多項確率として用いられました。本論文で観察されたデータを模擬実験と比較する単純な検定統計量として、1つもしくは複数の読み取りで疾患アレルの合計数が用いられます。図5では、妥当な過誤率の範囲(0~1.5%)にわたって、チャペルフィールドのデータについての本論文の検定統計量は、現代のアシュケナージ系ユダヤ人集団を考慮すると通常予測されるものの、(非フィンランド人の)現代ヨーロッパ人集団を考慮するとありそうにない、と示されます。以下は本論文の図5です。
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 これをさらに調べるため、尤度関数が定式化され、提案された人口集団のアレル頻度を考慮して、チャペルフィールドの6個体の159ヶ所の遺伝子座で観察されたアレル読み取りの正確な確率が計算されました。尤度関数は読み取り過誤媒介変数を利用して、単一の遺伝子座において10個のあり得る遺伝子型の106順列全てで観察されるデータの確率を合計します。遺伝子座は独立していると仮定されるので、全体的な確率は単に各遺伝子座固有の確率の積です。これにより、データを考慮して、(非フィンランド人の)現代ヨーロッパ人もしくは現代のアシュケナジー集団の可能性を計算できます。これら現代の人口集団のアレル頻度における不確実性をさらに数えるため、ディリクレ分布(一様な事前分布を有しています)における媒介変数としてのgnomAD総数が用いられ、あり得る人口集団のアレル頻度全体にわたって標本抽出されました。

 図6は5000点の無作為標本下での可能性を示しており、0~1.5%の一様な分布から標本抽出された、それぞれ異なる読み取り過誤率があります。最尤読み取り過誤率推定値はひじょうに類似しており、重要なことにこれらの結果からデータは、これらの個体が現代のアシュケナージ集団で標本抽出されたモデル下では、(非フィンランド人の)現代ヨーロッパ人集団で標本抽出されたモデル下よりも、4615倍可能性が高い、と示されます。この手法は、チャペルフィールドの6個体が各人口集団から無作為に標本抽出される、と想定しています。3個体がキョウダイであることを考慮して、この仮定の影響をさらに評価すると、これらのデータの事例では、本論文の評価は尤度比に控えめな影響を有する、と示唆されます。以下は本論文の図6です。
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 遺伝子座の大半(159ヶ所のうち155ヶ所)の尤度比(LR)はこれにほとんど影響を与えません。それは、読み取りのない遺伝子座が、どちらの人口モデル下でも同じ確率で、非病原性のアレル読み取りがない場合のみの遺伝子座は、病原性アレルがより低頻度のヨーロッパの人口集団においてわずかに確率が高くなるからです。その代わり、尤度でかなりの全体的違いがあるのは、SB676個体で観察された原発性線毛運動不全症と関連する多様体NC_000021.9のg.32602299のG→C、SB605個体で観察された思春期遅延と関連するNC_000007.14多様体のg.83961537のG→A、SB676個体で観察された癌易罹患性と関連するNC_000005.10多様体のg.112839514のT→A、mtDNA枯渇症候群と関連するSB696個体で観察されたNC_000022.11多様体のg.50528591のC→Tです。要注意なのは、病原体としてのNC_000007.14多様体のg.83961537のG→Aの解釈が最近、ClinVarでは不確実と変わったことですが、これは、現代のアシュケナージ集団と同程度に12世紀までに疾患関連頻度が上昇した、との本論文の分析の全体的な結論に影響を及ぼしません。


●考察

 本論文は、現代のアシュケナージ系ユダヤ人と類似した祖先系統を有する、チャペルフィールド遺跡の複数の関連の個体の存在と、1161~1216年(95%信頼区間)の組み合わされた放射性炭素年代を特定しました。これらの調査結果は、家族を標的とした1190年の反ユダヤ主義的攻撃と一致します。したがって、遺跡を特定の歴史的事象と関連づける困難にも関わらず、チャペルフィールド遺骸が1190年の反ユダヤ主義的暴力の犠牲者だった可能性はひじょうに高そうです。

 チャペルフィールドの6個体のうち、SB604における赤毛の色素沈着は注目に値し、それは、中世の反ユダヤ主義的比喩は多くの場合、ユダヤ人と赤毛との間の関連を組み込んだからです。本論文の結果から、アシュケナージ関連の疾患アレルが12世紀以前に現代の頻度近くにまで上昇したことも示唆されます。これらのアレルの大半はセファルディム系ユダヤ人では比較的低頻度なので、その頻度上昇をもたらした可能性が最も高い人口ボトルネックは、中世初期のヨーロッパ北部におけるアシュケナージ共同体の形成と関連しています。


参考文献:
Brace S. et al.(2022): Genomes from a medieval mass burial show Ashkenazi-associated hereditary diseases pre-date the 12th century. Current Biology.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.08.036


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