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DACチップはESSか旭化成か?

1:777 :

2022/08/02 (Tue) 13:23:54

DACチップはESSか旭化成か?その1
ハイファイ堂メールマガジン第824号 大須本店
大須本店 越濱 靖人
https://www.hifido.co.jp/merumaga/osu/191115/index.html

今回はマニアックなDACチップについての話を書こうと思います。
DACチップとは"Digital to Analog Converter"の略で、簡単に言うと音の心臓部に当たります。CDやパソコンの音楽など01011010...といったデジタルデータをいつも聞いている「音」に変換してくれる物がDACチップとなります。

当然メーカーによって音質が異なります。老舗DACチップメーカーはフィリップス、バーブラウン(現テキサス・インスツルメンツ)、ウォルフソン、アナログ・デヴァイセズ・・・などなどありました。特にバーブラウンは世界中の音響メーカーが使っていたはずです。今でも素晴らしい音質のチップです。

ただこのDACチップの世界に転機が訪れます。2009年にアメリカのESS社が発表したES9018SというDACチップです。このずば抜けた性能と音質に各メーカー驚いたでしょう。これによってDAC時代ががらりと変わった、と私は思います。今までにない音の温度感、情熱感、分解能。シンプルに表現出来ない複雑な味わい。特にこのチップの取り扱いが難しいことから設計者の技量が問われることになり、設計も複雑にヒートアップしたと思われます。ゆえに今までにない、新しい音が生まれたのかもしれません。

そんな中、宿敵が現れます。旭化成エレクトロニクス(AKM)のハイエンドDACチップAK4490の登場です。旭化成はESSと違い、きめ細やかで滑らか、非常に歪みが少ない音質で世界の音響メーカーに認めらました。日本のDACチップが一気に世界のメーカーで採用されるきっかけとなったチップです。そして現在、この2大DACメーカーが熱いバトルを繰り広げています。両者とも音のベクトルが違うため、どちらも人気があります。

今回はまず、ESS搭載のD/AコンバーターとDACチップの紹介をしていきたいと思います。
AIT Labo ES9018S 中古価格128,000円(2018年時)
このメーカーは入荷するまで知りませんでした。自作品っぽい作りだなと軽視して鳴らしてみたら、おや?これは今までのデジタルと音が違うなと見直しました。音に血の通った「情熱」を感じたのでした。興味が出て調べてみたらESS社のDACチップが2個使われているとのこと。俄然ESS好きになりました。

Accuphase DC-37 中古価格418,000円(2019年時)
このDACはDELAからUSB-DAC接続した時に驚きました。ふと昭和のPOPSを鳴らしてみたのですが、なんとその当時を思い浮かばせるような情緒的なサウンドで出たのです。後で調べてみたらESSのES9018Sが搭載されていました。最近のDACはいかにもハイファイ・サウンドです!と主張するモノが多いのですが、そんな中で素朴で自然な昭和リアリティを感じるとは思いませんでした。
ES9018S DACチップ
ESS社の爆発的ヒットを生んだDACチップです。2009年に発売され、瞬く間に沢山のメーカーが採用した高性能チップでした。このチップは8個のDACが内蔵されておりマルチチャンネルにも1チップで対応できます。ただ並列処理も出来るため8チャンネルを2チャンネルで使用するメーカーが多かったようです。高級DACは8チャンネル全てを片側に振り、2個使い(デュアルモノ構成)し、ダイナミックレンジと歪み率を追求していました。

ES9028pro DACチップ
伝説のチップ発売から7年が経ち2016年に発売されたのがES9028proチップになります。純粋に9018Sの後継モデルになり内蔵DACも8個入っています。やはり新しいだけあり前作より解像度が向上、更に音像が際立ち、見える音となりました。ただ、同時発売された上位モデルES9038proの影となってしまい、フラグシップ感は落ちてしまいました。現在1個6000円ほどで販売されています。
ES9038pro DACチップ
2016年このチップが大きな話題となりました。恐らく2009年の9018S登場と同じくらいのインパクトがあっただろうと思います。世界最高レベルの性能と8個DAC→32個DAC増加という、他が追従出来ないレベルへ押し上げた超ハイスペックDACの登場でした。この発表を受け、メーカーはまたこのチップの虜になりました。2019年現在でも最高スペックを維持し、人気を博しています。ただし、このチップは相当な電力を消費し大掛かりな電流電圧変換回路が必要なため、相当足腰が強くないと使えません。そのため据え置きオーディオを想定した設計となっています。1個あたり10,000円ほどで販売されています。

Accuphase DC-950 中古価格738,000円(2019年時)
最高級ES9038proを2個使ったアキュフェーズのフラグシップモデル。前作のDC-901はES9018Sを2個採用していました。今回のDC-950は、より音の鮮度が増し、低域の解像度が飛躍的に向上したように感じました。かなりカチッとしている印象です。USB-DAC入力でDSD11.2MHzまでロック出来るようになり、DSDが本格的に聴ける1台となっています。
OPPO Sonica DAC 中古価格128,000円(2018年時)
圧倒的なコストパフォーマンス!50万円を超えるモデルにしか搭載されていなかったES9038proを、10万円の価格で実現した驚きのモデルでした。発売期間が短くあっという間に販売終了になってしまった為、最近ではプレミアが付いて高値で取引されています。このモデルは1個が搭載され、お値打ちながら鮮度の高さを実感出来ます。LAN接続も可能ですが、USB入力の方が数段音は良いです。DSD11.2MHzまでは音出し確認できています。

iRiver Astell&Kern KANN CUBE 新品価格180,000円程度(今年の新モデル)
なんとポータブルの世界で初めてES9038proをダブルで搭載した意欲作です。半端ない消費電力に耐えるため通常の2倍のバッテリーを搭載しています。本体も相当熱くなるため万人向けではありませんが、私のような情熱派の方にはもってこいの商品かと思います。
本体も500gとポータブルの中では戦車並みに重くデカいですが、ストレートで彫りが深く太いサウンドでは右に出るものはないかもしれません。付帯音も少なく直球勝負で来ますので、ハイレゾ音源の良し悪しがモロに出ます。
ただ私の中では残念ながら9038Proを活かしきった音質には感じられませんでした。やはりこのチップは据え置き型の高級機でしか本領を発揮出来ないのだと思います。圧倒的に強力な電源、I/V変換、アナログアンプなど想像を超える設計でないとこのチップの旨味を引き出すことは出来ないでしょう。
そのくらいにESSのリファレンスチップは使い方が難しいです。
次回は旭化成の名機AK4490〜最新AK4499EQを含めた音のご紹介をしたいと思います。
https://www.hifido.co.jp/merumaga/osu/191115/index.html



DACチップはESSか旭化成か?その2
ハイファイ堂メールマガジン第841号 大須本店
大須本店 越濱 靖人
https://www.hifido.co.jp/merumaga/osu/200313/index.html

前回に引き続きDACチップの話を書こうと思います。その1ではESS社の事をメインで書きました。今回は旭化成エレクロトニクス(AKM)の歴史と私なりの思いを中心に書いていきます。DACチップ単体の音は評価できない為、当時搭載されていた機材の印象で書いています。
旭化成の音質は一言で言うと「とにかく滑らか」でしょう。一聴して安らぎを感じる落ち着いた佇まい、丁寧で破綻のない滑らかな質感、弱音部の繊細なタッチと余韻。質感はややウェットで日本の丁寧で端正な美意識を感じさせるチップだと思います。逆にESSは情熱やダイナミズム、躍動感が特徴で質感はドライです。
AK4397(2007年)
旭化成初の32bit処理になったDACチップです。ESOTERIC D-05 D/Aコンバーターに世界初搭載されました。当時とても解像度の高いクリアな音質だと思った印象があります。ただ上位モデルから考えると線が細く非常に硬い印象でした。この音質は製品のグレードが中堅モデルだったから、かも知れません。

AK4399(2008年)
翌年発表したチップです。更なるS/N比の向上や前作になかったフィルターの搭載などいくつか追加されています。ESOTERIC D-02 D/AコンバーターやK-01/03/05 CDプレーヤーに採用されていました。私の記憶ではこの時から音がマイルドに聞こえる様になりました。立ち上がりが早く、キメが細やかで破綻の無い音という印象です。細い印象が無く厚みが伴った感じに聞こえました。
AK4495S(2012年)
エソテリックと共同開発したとされるDACチップ。ESOTERIC Grandioso D1に初採用されました。全8個のチップを使用、チャンネルあたり16回路を組み合わせた壮大なDACです。その音はローエンド〜ハイエンドまで全く隙の無い緻密さで驚きました。ESOTERICはその他にもK-01X/K-03Xでも使用しています。DSD5.6MHz/PCM768KHzまで対応したチップとなります。

AK4490(2014年)
遂にDSD11.2MHz/PCM384KHz対応したチップです。旭化成もこのチップから「ベルベットサウンド」という第3世代チップに位置付け、新しい時代の幕開けとなりました。シルクの様に滑らかな質感、とても穏やかな佇まい、以前に増して厚みが感じられる様になりました。デジタルオーディオプレーヤーの名機Astell&Kern AK380に搭載され今もファンの多いモデルです。TEAC UD-503やESOTERIC K-05X/K-07Xにも搭載されています。後に登場するAK4497やAK4499と比べ解像度は劣るものの安定した色艶を感じさせる未だファンが多いチップです。
AK4497(2016年)
いよいよ旭化成の最高峰AK4497の登場です。前作4490で得た人気を更に高い次元(DSD22.4MHz/PCM768KHz)へ押し上げたプレミアムDACです。私はこのチップが一番完成度が高いと思っています。今まで築いてきた電圧出力を軸とした旭化成サウンドをしっかり継承し、堂々と筋の通ったDACに仕上がっています。音の気配、ピアノのタッチ、美しいボーカル、抜群に安定したサウンドが特徴でしょう。Astell&Kern SP1000、Cayin N8、Lotoo PAW GOLD TOUCHやESOTERIC K-01Xs、N-01、LINN KLIMAX DS/3等に使用されています。

AK4499(2019)
昨年発表された最新のDACチップです。このチップには旭化成の怨念が込められています。2016年にAK4497を発表直後にESS社が更にハイスペックなES9038Proを発表し世間の話題が一気にESSへ流れました。決して旭化成が劣っているわけではないですが数値面で負けてしまい悔しい思いをしました。そこで今回は9038proと対等に戦うべく伝統だった電圧出力を辞め、電流出力に変わりました。音質的にも攻めに転じたチップです。ほぼ無音に近いS/N比の高さ、ダイナミックで強靭な低域の締まりを感じる旭化成に無い個性を発揮しています。
Astell&Kern SP2000-CP(2019年)
世界で初めてAK4499チップを搭載したオーディオ機です。前作SP1000はAK4497を搭載していました。単純にチップの比較は出来ませんがSP2000の方がやや派手になった印象です。歴代の滑らかなベルベットサウンドを継承しつつ更に躍動感や情熱感が加わった音です。ただ全体的に筋肉質なサウンドになり過ぎ「滑らかなのにムキムキ」と言うチグハグな方向になってしまった様にも思えます。個人的にはAK4497の安定した旭化成サウンドをもう少し熟成させ、厚みがあるのに懐が深く広いものであってほしかったというのが正直な印象です。その点ESSのチップは全体的な音の整合性が取れており、狙うべきポイントにズレがないと思います。


旭化成のロードマップです。性能はほぼ限界値に達していると思います。人間が認識できるレベルとされるPCM768KHzに到達していることや1曲あたりのデーター量が半端なく大きすぎることからサンプリングレート競争は終わりを告げようとしてます。現在、色々なオーディオメーカーや個人の方がAK4499チップを使いD/Aコンバーターを作っています。これらがどんな音がするか興味津々です。
ただ今後はDACチップを使うメーカーが少なくなるかも知れません。現在エソテリックやマランツは「ディスクリートDAC」と言うDACチップを使わない手法に転換しています。よりコストのかかる仕組みですが音作りの自由度が高く、メーカー独自の音質で差別化出来るメリットがあります。特に英国CHORD社のDAVEが有名です。どのメーカーとも違う音質で、オンリーワンの商品です。この様にDACチップは新たな局面を迎えようとしています。
現在も発展中のデジタル分野は今後も目が離せません。益々面白くなりそうです。
https://www.hifido.co.jp/merumaga/osu/200313/index.html

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