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川端康成「雪国」の世界

1:777 :

2022/06/08 (Wed) 22:09:25

 
川端康成「雪国」の世界


川端康成「雪国」のロケ地巡りをしてきた - YouTube
2023/04/15
https://www.youtube.com/watch?v=KO3Ygxch_7Q

名作『雪国』が生まれた宿 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Y2ZYRKf01U0

Movies Yukiguni (2022) | ロマンス Yukiguni (2022) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=dfoBrOlfRGc


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映画「雪国」1957 動画
https://ok.ru/video/2378136750702

豊田四郎/監督 川端康成/原作
出演: 池部良, 岸恵子, 八千草薫, 森繁久彌


一夜一話 - 映画「雪国」 1957年 監督:豊田四郎 出演:岸惠子、池部良

  原作が川端康成の「雪国」だからといって、文学作品拝読の構えで観ると損をする。

  芸者・駒子を演ずる岸惠子が、思いの外に色っぽいと読み解けたら、この映画、一段と面白くなる。セックスシーンこそ無いが、島村(池部良)を前にした駒子は可愛く濡れている。

  画家の端くれと言う島村は、この雪国にスケッチのため、一人東京からやって来た。そして宿で芸者の駒子と出会う。出会ってすぐに互いの心はひとつとなった。そんなふたりの気配が部屋に満ちる様子を、酒を持ってきた宿の女中役・浪花千栄子が的確に演じてみせる。

  翌日の夜、宿の大広間の宴会は地元の芸者衆で盛り上がっていた。助っ人の駒子は酔っぱらっている。酔わないと島村の部屋に行く勇気が出ない。そんな一方的な熱い心を抱えて駒子は宴会を抜け出し島村の寝ている部屋へ入った。そこでのふたりのやり取りは、この映画で一二の見せ場だ。大胆な一方でその気持ちを自身の心の内に引きもどす駒子と、小悪魔的魅惑に翻弄されていく受け身な島村。そしてふたりは夜明けを迎えた。


そんな回想シーンを懐かしく思い返すふたりは、年の瀬迫る炬燵に入っている。そのうち島村が、「風呂に入ってくる」と、ひとり廊下を伝い脱衣所で帯を解こうとするその時、後ろから突然に駒子が、「あたしも入る」と言うやいなや帯を解き始める。驚く島村。風呂に入ってからの駒子も艶めかしい。

  初めて島村がここを訪れた時に、山で取って来たアケビを部屋の花瓶に生けるが、初対面の駒子がこのアケビの実を少し食べる。このアケビの実の隠喩・・・。またそのあと、紅が付いた盃を美しいと言い、それを厭わず口紅が付いたままの盃で駒子の酌を受ける島村、その態度にドギマギする駒子。ことほどさようにこの映画には、そんな色っぽいシーンがある。

ところが、「あんたなんか、東京へ帰っちゃいなさい」と駒子はたびたび島村に言う。年に一度の逢瀬。ふたりの愛は結ばれない。島村は東京に妻がいる。駒子の事はばれている。

  だが、「雪国」は島村と駒子の愛を描くだけではない。

  駒子と年下の葉子(八千草薫)は、それぞれ貧しい農家の子であったが、共に三味のお師匠の養女として育てられた。

  その後、駒子は芸者見習いから芸者となり、年配の旦那を持つ身となった。それは年老いてしまった養母と病を患うその息子の行男を養うため。養母と行男が住む家も、旦那の世話によるものだった。背負うものが多い駒子であった。

  幼なじみの行男は駒子のことが好きだったが、駒子はそうでもなく、むしろ密かにだが葉子の方が彼を愛していた。だから葉子は駒子を憎んでいた。島村を駒子から奪ってしまいたい、そんな邪念を葉子は抱くようになって行った。

  駒子の妊娠と旦那からの離縁、芸者としての独り立ち、行男の容体悪化、火事と葉子の火傷、そして島村と駒子の別れ。島村は最後まで駒子に対する態度が煮え切らない。

  岸惠子のぶりっ子なまでの艶めかしさ、池部良演ずる逡巡するつれない男、絶たない逃げ道。

  脇役では、宿の女中役の浪花千栄子がダントツに光る。田舎芸者を演ずる市原悦子と島村のシーンは喜劇だ。また、盲目の按摩マッサージ指圧師を演ずる千石規子が、なにやら異彩を放つのに魅かれる。最後に、音楽担当の芥川也寸志が、欧米映画音楽の弦楽をよく勉強しているのが聴ける。
  

監督:豊田四郎|1957年|133分|

原作:川端康成|脚色:八住利雄|撮影:安本淳|音楽:芥川也寸志|

出演:

島村(池部良)
駒子(岸惠子)
葉子(八千草薫)

葉子の弟・佐一郎(久保明)|師匠(三好栄子)|その息子・行男(中村彰)|宿の女中おたつ(浪花千栄子)|同じく・おりん(春江ふかみ)|同じく・おとり(水の也清美)|宿の主人(加東大介)|宿のお内儀(東郷晴子)|県会議員・伊村(森繁久彌)|駒子の母(浦辺粂子)|番頭(東野英治郎)|万吉(多々良純)|女給・花枝(中田康子)|芸者・菊勇(万代峯子)|同じく・勘平(市原悦子)|駅長(若宮忠三郎)|女按摩(千石規子)|宿の女中きみ子(加藤純子)|小千谷の番頭(桜井巨郎)|
http://odakyuensen.blog.fc2.com/blog-entry-1257.html


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Amazon 雪国 [DVD] 池部良 (出演), 岸恵子 (出演), 豊田四郎 (監督)
https://www.amazon.co.jp/%E9%9B%AA%E5%9B%BD-DVD-%E6%B1%A0%E9%83%A8%E8%89%AF/dp/B000ANW0WI

カスタマーレビュー

思わず、これが同じ日本なのか?!と目を見張った逸品 投稿者 へいたらう 投稿日 2007/11/5

この作品は、言うまでもなく、ノーベル賞作家・川端康成の名作を映画化したものだが、大家が描く男女の心の機微よりも、むしろ、私には昭和初期の習俗を余すことなく映し出したことの方が印象深かった。

即ち、「同じ日本なのか?!」とさえ思わせられるほどに衝撃的であると同時に、新鮮でもあったのである。

見上げるほどに降り積もった雪。

その雪の中に、多くの人たちが暮らし、多くの子供たちが、見たこともない祭りに興じている。

その一方で、男がふらりと田舎町の宿屋に宿泊すれば、いきなり、「芸者を呼んでくれ」と言って普通に女を抱けるという現実と、自分の想いとは別に、生きていくためには心を切り離さねばならないヒロインの現実・・・。

作品自体は、後半、少々、間延びしたような観がなきにしもあらずだったが、それらの悲哀を余すことなく描きったという点では十分に堪能できたように思う。

配役陣という点では、何と言っても大女優・岸恵子の、「可愛い」駒子役が圧巻であったろう。

役柄、酔っぱらう姿が多かったが、本当に酔っぱらっているようにしか見えなかったし、自分の感情と、どうにもならない現実との間で身を焦がす姿も他の女優とはひと味もふた味も違うものがあったように思う。

島村役は池部良でも佐田啓二でも大差なかったかもしれないが、岸恵子の駒子役だけは、圧巻であったように思える所以である。

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駒子役の岸恵子の演技力が光る最高の名作
投稿者 島村 良 投稿日 2008/1/18

この作品は日本映画史上屈指の名作であると思う。
出演者は言うまでもなく、監督、脚本、映像、音楽等全てがすばらしい。

その中でも特筆すべきは、やはり駒子役の岸恵子の存在感であろう。

駒子は実はなかなかに演じるのが難しいキャラクターの持ち主。
芸者に出るような身でありながら純粋さを失わない可愛い女だが、感情の起伏の激しさ、情の深さ、時に見せる弱さ、嫉妬心、そういうものを複雑に併せ持つ女性である。

岸恵子はその駒子が到底成就するはずもない恋に身をやつす様を、これ以上ないと思えるほどの卓越した演技力で見せてくれているのだ。

小説を映画化し、多くの人の賛意を得るのはとても難しいことだと思う。
前もって本を読んでいた人々には、それぞれにその作品に対する強いイメージが心に焼き付いているものだ。だから他人の手によって映画化されたものには、たいていの場合失望感を持つケースがほとんどであるだろう。しかしながらこの作品はそういった違和感なりを遠くへふっとばしてしまうほどの圧倒的な臨場感をもって我々の心に迫ってくる。


島村役の池部良、葉子役の八千草薫他脇役陣もそれぞれにその役柄に応じた最高の演技である。又、白黒の映像が雪という幽玄な世界をより魅力的なものにさせている。なかでも鳥追い祭りの雪と火が織り成すシーンは、来るはずであった島村に裏切られた駒子の哀しくしかし美しい表情ともあいまって芸術作品を見るかのごとくである。さらに全編を流れる團伊玖磨の音楽はあたかもハリウッド映画のそれを思わすすばらしい効果をあげている。

しかしながら何といっても最高なのは「岸恵子の駒子」である。もとより大女優だけに数多くの作品に出演してはいるが、これがおそらくベストパフォーマンスだと個人的には確信している。彼女を超える駒子役はおそらくもう出ないことだろう。50年ほど前の映画だが、その演技にまったく古くささは感じない。現代を生きる若い方々にも是非見てもらいたいと思う。

きっとその魅力が時代を超えて伝わってくることだろう。


ただひとつ残念に思ったのは、切なく美しいラストシーンの直前の場面、火事で顔に醜い火傷を負った葉子の顔のアップ(一瞬ではあるが・・)を見せる必要があったのかどうか。

せめて包帯を巻くとか何とかできなかったものか、この映画をTVで始めて見た高校3年のときにはその悲惨さがショックでなかなか寝つかれなかったことを思いだす。

それがあるために、ラストのやや重苦しい感動が、必要以上にその度合いを増してしまったように思うのは私だけであろうか。


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名作『雪国』が生まれた宿 - YouTube動画
2015/06/23
https://www.youtube.com/watch?v=Y2ZYRKf01U0

説明 名作『雪国』が生まれた越後湯沢の宿「高半」、昭和9年~12の間に5度にわたり川端康成氏がここに滞在した。小説の中に出てくる「駒子」は当時「松栄」の名で芸妓をしていた彼女がモデルだ。

結婚後の本名小高キクさん、大正4(1915)11月23日三条市生まれ。1999年1月末没だった。昭年(1934)新緑の頃5月、19歳の時初めて川端康成当時35歳と出合っている。

後に、本が出版された時、小説の中の「駒子」って、これあなたのことではないのと、周りから指摘されて初めて知る。「相当癇に障ったという」。先生からの詫び状と生原稿と色紙を「松栄」さんに送ったのだが、25歳で芸者を辞め湯沢を去る時、日記と供に焼き捨てたという。

「小説とはいえ、あれは殆ど実際の話なんです」と夫久雄氏に語られていたという。若かった「松栄」さんは早く先生に会いたいばかりに、雪の深い崖をよじ登って部屋へ行ったそうです。寝てるうちから火をおこしたり、いろいろ世話をしてね・・・。純粋で大変な情熱家なんですよ。家内の持っていた『雪国』には、気に入らない箇所に、”こんちくしょ”なんて書き込みがあった。感情を直接ぶっつけていたんですね。

高半ホテル文学資料室にて「週刊新潮記事より」


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小説「雪国」の世界/雪国の宿 高半(湯沢町)
http://www.youtube.com/watch?v=RDqGweTZEzM

川端康成先生が愛した温泉/雪国の宿 高半(湯沢町)
http://www.youtube.com/watch?v=4fStMeIhWEc

越後湯沢ニュース「高半」冬景色.MOV
http://www.youtube.com/watch?v=7DPNnHrd_L4

DMC-ZX1 HD 越後湯沢湯元 高半からの眺望
http://www.youtube.com/watch?v=hPzy4rSpSmU

DMC-ZX1 HD 越後湯沢湯元 高半からの日没後眺望
http://www.youtube.com/watch?v=K183QhWfg_Q

2013年1月7日 越後湯沢「冬風景」
http://www.youtube.com/watch?v=Bb8I_VvFjNU

越後湯沢ニュース「雪景色」
http://www.youtube.com/watch?v=0WKXvoyo9k0


松栄。駒子のモデルとなった女性

http://odori.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_830/odori/DSCF6448_640.jpg?c=a1
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%9B%BD_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)


昭和初期の高半旅館。
http://ameblo.jp/naruru8854/image-11506027175-12490281812.html


川端康成が滞在し執筆をつづけた『かすみの間』

http://odori.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_830/odori/DSCF6414_640.jpg?c=a0
http://ameblo.jp/naruru8854/image-11506027175-12490281645.html
http://ameblo.jp/naruru8854/image-11506027175-12490281647.html
http://ameblo.jp/naruru8854/image-11506027175-12490281646.html


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川端康成の「雪国」を歩く 2013年02月03日
https://blog.goo.ne.jp/aoisorae/e/cc141c337bdcff2e940365d4bc012ffb


あらためて川端康成著「雪国」とは。

「親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという。駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない----。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。」
(文庫カバーの内容紹介より)

という概略で、当面十分だろう。

駐車場を11時ごろに出て、温泉通りを長靴をはいて傘をさして、歩き始めた。


▲ 左側には、温泉通りに平行して新幹線が走る。無粋な風景になるが、しょうがない。

まもなく、昨日の布場(ぬのば)スキーゲレンデ近くへ来た。


▲ 「ゆきぐに」とか「島村」とかの民宿名が出てくる。
徐々に「雪国」の世界へ入っていく(笑)。

もちろん、こんな名物も。


まずは、湯沢町歴史民俗資料館「雪国館」へ行って、情報を集めてこよう。

▲ 階段を上がって入館すると、そこは2階。

 2F

▲ 湯沢の懐かしの、囲炉裏端(いろりばた)等を紹介するコーナーも、もちろんある。
けど、私の関心はあくまで小説。3階の書籍・閲覧コーナーへ。

 3F

▲ ここでは、「雪国」に関連する書籍類、パネル展示があった。

興味深かった写真2点、ご紹介しよう。



▲ 山袴(さんばく)をはいたスキー姿の松栄(まつえ)さん(左側)。松栄は駒子のモデルになった女性だ。山袴は、小説に何度も記述があるが、要はモンペのことだと思う。

「(島村が駒子に尋ねる)やっぱりスキイ服を着て(滑るの)。」
「山袴。ああいやだ、いやだ、お座敷でね、では明日またスキイ場でってことに、もう直ぐなるのね。今年は辷(すべ)るの止そうかしら。・・」

いかにも湯沢らしい、客の口説き方だ(笑)。


▲ 高半旅館から、湯沢の町並みを眺めた当時の興味深い写真。
左手に諏訪社の杉木立。中央は湯沢の町並み。右手は布場スキー場。
地形はもちろん、今も変わっていないが、現在は杉木立の手前から向こうまで新幹線が走っている。
当時の湯沢は、まさに田舎だったことがよく分かる。

雪国館の1Fにも、「雪国」資料が満載だった。

1F入り口


▲ 「雪国」は過去、何度か映画化されている。入り口の壁には1957年の池辺良(島村)、岸恵子(駒子)主演の映画ポスター。映画を回顧して池辺良が語った記事がクリップしてあった。

島村が最初芸者を呼んだが、肌の浅黒い骨ばったいかにも山里の芸者が来て、帰すのに苦労する場面があるが、その山里芸者を演じたのが市原悦子とか。いかにも、適役っぽく私は笑ってしまった。

また、川端先生はスタッフとの打ち合わせのあいだじゅう、岸恵子の手をさすっていたとか。言行一致の川端だ。


▲ 「国境の長いトンネル」とは、昭和6年全通の単線清水トンネル。


さらに、ここには駒子のモデル松栄が住んだ置屋「豊田屋」での部屋を移築し、再現したものがあった。


▲ 小説の駒子の部屋は、繭倉を改造した屋根裏、低い明り窓が南に一つあるきり、となっているのでモデルの実部屋とは少し違うようだ。

窓の外の写真を拡大すると、


となる。先ほどの、高半旅館から眺めた湯沢町並み写真と同じだ。位置的にもおかしな風景になるが、拡大されて、湯沢風景がよりよくわかる。

▲ 布場ゲレンデの側にあるスキー神社。紋がスキー板だ。 右の向こうに、高半旅館が見える。

高半旅館への、つづら折りの登り口を「湯坂」と呼ぶ。この湯坂の中途右手に、「山の湯」がありもう少し上がると、昔は高半旅館の入り口になったという。

 「湯坂」

湯坂を上がりきったところが、小説に「裏山」とよばれる山がある。


▲ なんでもない山だが、裏山。

「島村は宿の玄関で若葉の匂いの強い裏山を見上げると、それに誘われるように荒っぽく登って行った。・・ほどよく疲れたところで、くるっと振り向きざま浴衣の尻からげして、一散に駆け下りて来ると、足もとから黄蝶が二羽飛び立った。蝶はもつれ合いながら、やがて国境の山より高く、黄色が白くなってゆくにつれて、遥かだった。」

飛び立つ二羽の黄蝶とは、島村と駒子の出会いと別れを暗示する。印象的な場面だ。


当時の高半旅館と裏山の写真はこれだ。


▲ 赤印が高半旅館。右端の杉林が、諏訪社。

さらに、当時の高半旅館がこれ。


▲ 丸印が、川端が逗留し松栄が通った部屋。これが島村と駒子の物語に代わっていった。

この旅館は建て替えられて、現在の高半ホテル↓になる。

 高半ホテル玄関

では、高半ホテルに今も保存されている二人の部屋、「かすみの間」(小説では「椿の間」)へ行ってみよう。


▲ 川端の、このかすみの間で交わされる駒子と島村の情感の描写は、精緻だ。
窓からの折々の景色の美しい表現のみならず、島村の五感を通して駒子の、愛、なげき、怒りの心理が細やかに表現されていく。


「私はなんにも惜しいものはないのよ。決して惜しいんじゃないのよ。だけど、そういう女じゃないの。きっと長続きしないって、あんた自分で言ったじゃないの。」

「『つらいわ。ねえ、あんたもう東京へ帰んなさい。つらいわ。』と、駒子は火燵の上にそっと顔を伏せた。つらいとは、旅の人に深はまりしてゆきそうな心細さであろうか。またはこういう時に、じっとこらえるやるせなさであろうか。女の心はそんなにまで来ているのかと、島村はしばらく黙り込んだ。」

「駒子のすべてが島村に通じて来るのに、島村のなにも駒子には通じていそうにない。駒子が虚しい壁に突きあたる木霊(こだま)に似た音を、島村は自分の胸の底に雪が降りつむように聞いた。このような島村のわがままはいつまでも続けられるものではなかった。」

しかし、その島村の生き方の限界が駒子に理解され、駒子を絶望に陥(おとしい)れるのであるが。

▲ 細かい部屋の見取り図が残されている。
朝、旅館の女中と顔を合わせるのを避けて駒子が隠れた押入れ、の説明もある。

他の展示物とともに、駒子=松栄の写真も展示されていた。

▲ 右端が松栄さん。

松栄さんは、無断で川端が自分をモデルにした小説を書いたことにやはり当惑した。川端は雪国初稿の生原稿を松栄さんに届けて謝ったことが伝えられている。その後松栄さんは、芸者を辞めて湯沢を離れる時、その生原稿や自分がつけていた日記を全部焼いて、新潟の結婚相手のところへ向かったことが伝えられている。

さて、高半旅館はこれくらいにして、さらに小説の舞台となった周囲を散策しよう。

旅館を辞して、下に下ったところに、置屋の豊田屋跡がある。

▲ 今は木造集合住宅になっている。ここに松栄が住んでいた芸者置屋(といっても彼女一人だったが)豊田屋跡。その部屋の復元が、朝の雪国館1Fにあったもの。

この豊田屋跡の少し上が、もうひとつのスポット、「社」(やしろ)という表現で出てくる、村の鎮守、諏訪社だ。


▲ 雪に埋まっている諏訪社。ここで、島村と駒子はしみじみと会話をする場面が続く。

「女はふいとあちらを向くと、杉林のなかへゆっくり入った。彼は黙ってついて行った。神社であった。苔のついた狛犬の傍の平らな岩に女は腰をおろした。『ここが一等涼しいの。真夏でも冷たい風がありますわ。』・・」

今は、狛犬も腰を下ろした岩も、残念ながら雪の下だ。

松栄さんが、生原稿と日記を焼いたのも、この社だった。
https://blog.goo.ne.jp/aoisorae/e/cc141c337bdcff2e940365d4bc012ffb


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▷川端康成の「雪国」異なる展開も構想か 残されていた創作メモ 2022年4月1日
https://www.youtube.com/watch?v=xn25cuYmlAU

ノーベル文学賞作家、川端康成の代表作とされる「雪国」の結末を検討したとみられる創作メモが残されていたことが、日本近代文学館への取材で新たに分かりました。発表された作品とは異なる展開をうかがわせる記述もあり、名作誕生の過程を示す第一級の資料として注目されます。

創作メモは、日本近代文学館が2日から開く展覧会のために行った調査で確認されました。

縦横20センチほどの用紙には「玉蜀黍色」など「雪国」に使われた語句が羅列され、実際に使ったアイデアは線を引いて消すという、川端の創作過程で見られる特徴がありました。

「雪国」は親譲りの財産で暮らす主人公の「島村」が、温泉街のある雪深い町を訪れ、2人の女性との関わりを深めていく様子を、繊細で美しい情景描写と共に描いた作品です。

最後は火事の明かりの中で、主人公が流れ落ちてくるような「天の河」を見上げる場面で終わりますが、今回のメモには「狂つた葉子、駒子のために島村を殺さんとす」と記された部分があり、川端が主人公を巻き込んだ修羅場を構想していたこともうかがえます。

日本近代文学館の中島国彦理事長は「今まで知られていなかったもので驚いた。『雪国』は冒頭を削るなど、川端が絶えず未完として理想を追い求めた作品だった。今回のメモによって『雪国』自体が本当に完結していたのかなど、さまざまな可能性についての議論が出てくるだろう」と話しています。


雪国とは

川端康成の代表作、「雪国」は「国境の長いトンネルを抜けると 雪国であった。夜の底が白くなった。」という有名な書き出しで知られます。

親譲りの財産で暮らす妻のいる文筆家=「島村」が、列車に乗って温泉街のある雪深い町を訪れ、19歳の「駒子」という女性と知り合います。

どこか現実感のないまま物語は展開していきますが、文章の中の随所に川端独自の美しく繊細な表現が盛り込まれています。
繰り返された推こう
ところで、「雪国」は、最初から1本の小説だったわけではありません。

雑誌に発表していた短編をまとめ、1937年に、単行本として刊行されました。

日本近代文学館によりますと、川端は、その後も長きにわたって「雪国」の加筆や修正を続けたといいます。

日本近代文学館の中島国彦理事長は「そのつど、そのつど、作者の頭の中に理想の『雪国』というものを考え続けていたということではないでしょうか」と話しています。


“旅”が創作の原動力に

川端は実際に訪れた土地や自身の経験をもとにした作品を数多く残し「雪国」の舞台も新潟県湯沢町にある越後湯沢温泉だと明かしています。

中島理事長は「川端は実際に訪れた旅先を作品の舞台にすることが多い。その場で考えたことや感じたことをことばとして紡いでいくというのが1つの特色だ。地域との関係を大事にしていたのだと思う」と分析しました。


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トンネルの向こう側で待っている女性とは…


川端康成「雪国」

もう三時間も前のこと、島村は退屈まぎれに左手の人差指をいろいろに動かして眺めては、

結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、
はっきり思い出そうとあせればあせるほど、つかみどろこなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに、この指だけは女の触感で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと、不思議に思いながら、鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていたが、

ふとその指で窓ガラスに線を引くと、底に女の片眼がはっきり浮き出たのだった。彼は驚いて声をあげそうになった。

http://goxdrl5zz3.doorblog.jp/archives/1608409.html


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              ノ:ノ::ノ;/;;;;;i;;i   あ…ん? ああ…あああ…いや? いや? ダメぇ!
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雪国は作者が36歳の時から書き始められたものです。あらすじは、


主人公の島村が芸者・駒子を求めて北国の温泉宿にやってきます。

同じ電車に、美しい眼を持った葉子という女性が乗っていることを知りますが、この葉子は駒子の踊りの師匠の娘でした。

島村と駒子の関係が美しい文章でつづられます。やがて島村は葉子にも魅力を感じるようになります。物語の最後、繭倉(まゆくら)という建物が火事になり、火事の中に葉子がいることに気づいた駒子が葉子を助けに火の中に飛び込みます。

 この作品は冒頭から「宝石」に彩られています。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

向かい側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした。…

『駅長さあん、駅長さあん。』」

 あまりにも有名な書き出しです。トンネルを抜けると、積もった雪によって夜の底が白くなります。静かな信号所に、「駅長さあん」という葉子の美しい声が響き渡るのです。

 島村は電車の中のことを思い出します。


「もう三時間も前のこと、島村は退屈まぎれに左手の人差し指をいろいろに動かして眺めては、結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、…この指だけは女の感触で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと、不思議に思いながら、…ふとその指で窓ガラスに線を引くと、そこに女の片眼がはっきり浮き出たのだった。」(8頁)


 駒子の体を指が覚えていて、その指で窓ガラスに線を引くと、そこに向かい側の座席に座っていた葉子の美しい目が写ったのです。

「殊に娘の顔のただなかに野山のともし火がともった時には、島村はなんともいえぬ美しさに胸が震えたほどだった。…娘の眼と火とが重なった瞬間、彼女の眼は夕闇の波間に浮かぶ、妖しく美しい夜光虫であった。」(10-11頁)

 何と美しい表現でしょう。葉子の眼が「夕闇の波間に浮かぶ、妖しく美しい夜光虫」だというのです。葉子の「顔のただなかに野山のともし火がともった時」との表現には、物語終わりの火事の場面が暗示されています。

 島村は村の温泉宿に投宿します。午後、駒子が遊びに来て、二人で外に出ます。

「…島村は宿の玄関で若葉の匂いの強い裏山を見上げると、それに誘われるように荒っぽく登って行った。…足もとから黄蝶が二羽飛び立った。蝶はもつれ合いながら、やがて国境の山より高く、黄色が白くなってゆくにつれて、遙(はる)かだった。」(28頁)

 駒子と山を登る。すると足もとから二羽の黄蝶が飛び立つ。蝶たちはまるで島村と駒子のようにもつれ合いながら、国境の山より高く青い空へと白く消えていくのです。作者の美的感覚には尋常ならざるものがあります。

 別の日には、島村が村を散歩していると芸者が5〜6人立ち話をしており、その中には駒子がいました。島村を見ると「咽(のど)まで染めて」しまいます。駒子は走って島村に追いつくと、彼女が住んでいる踊りの師匠の家に案内します。

「右手は雪をかぶった畑で、左には柿の木が隣家の壁沿いに立ち並んでいた。家の前は花畑らしく、その真中の小さい蓮池(はすいけ)の氷は縁(ふち)に持ち上げてあって、緋鯉(ひごい)が泳いでいた。柿の木の幹のように家も朽ち古びていた。」(51頁)

 駒子の部屋ははしごを登った二階の屋根裏部屋で、昔はここで蚕(かいこ)を飼っていたといいます。

「壁にも丹念に半紙が貼ってあるので、古い紙箱に入った心地だが、…この部屋が宙に吊(つ)るさっているような気がしてきて、なにか不安定であった。…蚕のように駒子も透明な体でここに住んでいるかと思われた」(52頁)

 傾いたような部屋はまるで繭のように吊られているようで、そこに駒子が透明な体で住んでいるような気がするのです。
 駒子は島村が泊まっている宿にも出ていますが、ある日駒子の走り書きを葉子が持ってきました。

「『どうもありがとう。手伝いに来てるの?』

『ええ。』と、うなずくはずみに、葉子はあの刺すように美しい目で、島村をちらっと見た。島村はなにか狼狽した。…

気のゆるみか、少し濡れた目で彼を見上げた葉子に、島村は奇怪な魅力を感じると、どうしてか反(かえ)って、駒子に対する愛情が荒々しく燃えて来るようであった。」(131-133頁)

 島村は駒子に加えて葉子にも魅力を感ずるのです。

 島村はそろそろこの温泉場から離れるはずみをつけるつもりで汽車に乗って、近くの街をうろついてみます。白い山を見て、島村はこんなことを思います。

「…一人旅の温泉で駒子と会いつづけるうちに聴覚などが妙に鋭くなって来ているのか、海や山の鳴る音を思ってみるだけで、その遠鳴(とおなり)が耳の底を通るようだった。」(156頁)

 この山の遠鳴りは作者に実際に聞こえたようです。50歳の時に書いた「山の音」でそれが描写されています。

「…ふと信吾に山の音が聞こえた。…地鳴りとでもいうか深い底力があった。…音がやんだ後で、信吾ははじめて恐怖におそわれた。死期を告知されたのではないかと寒けがした」(新潮文庫、2007年、10頁)

 タクシーで帰ってくると、小料理屋の前で芸者が3、4人立ち話をしており、その中に駒子がいます。二人で歩き始めると、「火事だ」との声が聞こえ、二人は駆けはじめます。駒子は踏切の手前で急に立ち止まると、

「『天の河。きれいねえ。』

駒子はつぶやくと、その空を見上げたまま、また走り出した。

 ああ、天の河と、島村も振り仰いだとたんに、天の河のなかへ体がふうと浮き上がってゆくようだった。…旅の芭蕉が荒海の上に見たのは、このようにあざやかな天の河の大きさであったか。…島村は自分の小さい影が地上から逆に天の河へ写っていそうに感じた。」(163頁)

 島村は天の川のあざやかさに驚かされるだけでなく、逆に自分の影が空まで伸び、天の川の形になって夜空にかかる錯覚をみるのです。

 島村と駒子は火事の現場に着きます。

「あっと人垣が息を呑んで、女の体が落ちるのを見た。

…落ちた女が葉子だと、島村も分かったのはいつだったろう。

…島村がこの温泉場へ駒子に会いに来る汽車のなかで、葉子の顔のただなかに野山のと  もし火がともった時のさまをはっと思い出して、島村はまた胸がふるえた。

 駒子が島村の傍(そば)から飛び出していた。

…葉子を胸に抱えて戻ろうとした。…駒子に島村は近づこうとして、…踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。」(171-173頁)

 「雪国」はこの非常に美しい「宝石」とともに終わるのです。

http://www.geocities.jp/hinomanabu/bungaku/yukiguni.html


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   @゙!         |::              !::        ノ

● スキイの季節前の温泉宿は最も客の少ない時で、島村が内湯から上がって来ると、もう全く寝静まっていた。古びた廊下は彼の踏む度にガラス戸を微かに鳴らした。その長いはずれの帳場の曲がり角に、裾を冷え冷えと黒光りの板の上へ拡げて、女が高く立っていた。  


● とうとう芸者に出たのであろうかと、その裾を見てはっとしたけれども、こちらへ歩いて来るでもない、体のどこかを崩して迎えるしなを作るでもない、じっと動かぬその立ち姿から、彼は遠目にも「真面目」なものを受け取って、急いで行ったが、女の傍に立っても黙っていた。女も濃い白粉の顔で微笑もうとすると、反って泣き面になったので、なにも言わずに二人は部屋の方へ歩き出した。  
 

● …なにか彼女に気圧される甘い喜びにつつまれていた


● 女の印象は不思議なくらい清潔であった。足指の裏の窪みまできれいであろうと思われた。


● なにかすっと抜けたように涼しい姿


● 細く高い鼻が少し寂しいけれども、その下に小さくつぼんだ唇はまことに美しい蛭の輪のように伸び縮みがなめらかで、黙っている時も動いているかのような感じだから、もし皺があったり色が悪かったりすると、不潔に見えるはずだが、そうではなく濡れ光っていた。


● …美人というよりもなによりも、清潔だった。


● なんともいえぬ清潔な美しさであった。


● 一人生真面目な顔つきであった。


● 百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。


● 「ずっと欠かさず日記をつけてるのかい。」

  「ええ、十六の時のと今年のとが、一番面白いわ。」  

 ⇒  十六の時:行男への恋心 今年:島村への恋心


● 「そんなものを書き止めといたって、しょうがないじゃないか。」

  「しようがありませんわ。」

  「徒労だね。」

  「そうですわ。」と、女はこともなげに明るく答えて、しかしじっと島村を見つめていた。


 全く徒労であると、島村はなぜかもう一度声を強めようとした途端に、雪の鳴るような静けさが身にしみて、それは女に惹きつけられたのであった。彼女にとってはそれが徒労であろうはずがないとは彼も知りながら、頭から徒労だと叩きつけると、なにか反って彼女の存在が純粋に感じられるのであった。

● 駒子が息子のいいなずけだとして、葉子が息子の新しい恋人だとして、しかし息子はやがて死ぬのであれば、島村の顔にはまた徒労という言葉が浮かんできた。駒子がいいなずけの約束を守り通したことも、身を落としてまで療養させたことも、すべてこれ徒労でなくてなんであろう。

 駒子に会ったら、頭から徒労だと叩きつけてやろうと考えると、またしても島村にはなにか反って彼女の存在が純粋に感じられてくるのだった。

● (葉子の声の描写) 澄み上がって悲しいほど美しい声だった。どこかから木魂が返ってきそうであった。


● (葉子の目つきの描写)それは遠いともし火のように冷たい
  


● そして静かな声で、八月いっぱい神経衰弱でぶらぶらしていたなどと話しはじめた。「気ちがいになるのかと心配だったわ。」   

⇒ 妊娠の予感→金銭の呪縛、師匠たちに顔向けできない

● (駒子、島村に) 「あんた、いい加減な人ね。」


● 少しはにかんでから、唄を待つ風に、さあと身構えして、島村の顔を見つめた。 島村ははっと気圧された。

…忽ち島村は頬から鳥肌立ちそうに涼しくなって、腹まで澄み通って来た。たわいなく空にされた頭のなかいっぱいに、三味線の音が鳴り渡った。全く彼は驚いてしまったというよりも叩きのめされてしまったのである。敬虔の念に打たれた、悔恨の思いに洗われた。自分はただもう無力であって、駒子の力に思いのまま押し流されるのを快いと見を捨てて浮かぶよりしかたがなかった。  
 


● …だんだん憑かれたように声も高まって来ると、撥の音がどこまで強く冴えるのかと、島村はこわくなって、虚勢を張るように肘枕で転がった。


 勧進帳が終わると島村はほっとして、ああ、この女はおれに惚れているのだと思ったが、それがまた情けなかった。

・・・島村には虚しい徒労とも思われる、強い憧憬とも思われる、駒子の生き方が、彼女自身への価値で、凛と撥の音に溢れ出るのであろう。

   ⇒  彼女の弾く「黒髪」:一度去って戻らぬ男を待ち暮らす女の悲しみを唄ったもの

● 情景
月はまるで青い氷のなかの刃のように澄み出ていた。 
 

● 「つらいわ。ねえ、あんたもう東京ヘ帰んなさい。つらいわ。」
と、駒子は火撥の上にそっと顔を伏せた。

 つらいとは、旅の人に深はまりしてゆきそうな心細さであろうか。またはこういう時に、じっとこらえるやるせなさであろうか。女の心はそんなにまで来ているのかと、島村はしばらく黙り込んだ。


「もう帰んなさい。」

「実は明日帰ろうと思っている。」

「あら、どうして帰るの?」

と、駒子は目が覚めたように顔を起こした。

「いつまでいたって、君をどうしてあげることも、僕には出来ないんじゃないか。」

 ぼうっと島村を見つめていたかと思うと、突然激しい口調で、

「それがいけないのよ。あんた、それがいけないのよ。」

と、じれったそうに立ち上がって来て、いきなり島村の首に縋りついて取り乱しながら、

「あんた、そんなこと言うのがいけないのよ。起きなさい。起きなさいってば。」

と、口走りつつ自分が倒れて、物狂わしさに体のことも忘れてしまった。 それから温かく潤んだ目を開くと、

「ほんとに明日帰りなさいね。」

と、静かに言って、髪の毛を拾った。


● 駒子は肩の痛さをこらえるかのように目をつぶると、さっと顔色がなくなったが、思いがけなくはっきりかぶりを振った。

「お客様を送ってるんだから、私帰れないわ。」

島村は驚いて、

「見送りなんて、そんなものいいから。」

「よくないわ。あんたもう二度と来るか来ないか、私にはわかりゃしない。」

「来るよ、来るよ。」

…葉子「行男さんが呼んでる。」と、駒子を引っ張るのに、駒子はじっとこらえていたが、急に振り払って、「いやよ。」

● 「素直に帰ってやれ。一生後悔するよ。強情張らないでさらりと水に流せ。」


● 「いや、人の死ぬの見るなんか。」

それは冷たい博情とも、余りに熱い愛情とも聞こえるので、島村は迷っていると、

…「ねえ、あんた素直な人ね。素直な人なら、私の日記をすっかり送ってあげてもいいわ。あんた私を笑わないわね。あんた素直な人だと思うけれど。


● 島村はわけ分からぬ感動に打たれて、そうだ、自分ほど素直な人間はいないのだという気がしてくると、もう駒子に強いて帰れとは言わなかった。
  

● 無為徒食の彼には、用もないのに難儀して山を歩くなど徒労の見本のように思われるのだったが、それゆえにまた非現実的な魅力もあった。


● 「あれだって、私には真面目なことだったんだわ。あんたみたいに贅沢な気持ちで生きてる人と違うわ。」


● 「わからないわ、東京の人は複雑で。あたりが騒々しいから、気が散るのね。」

「なにもかも散っちゃってるよ。

「今に命まで散らすわよ。」


●  (酔った駒子の膝の上に頭を乗せて)

目を閉じているとその熱が頭に染み渡って、島村はじかに生きている思いがするのだった。駒子の激しい呼吸につれて、現実というものが伝わって来た。それはなつかしい悔恨に似て、だたもう安らかになにかの復讐を待つ心のようであった。


● 駒子の愛情は彼に向けられたものであるにもかかわらず、それを美しい徒労であるかのように思う彼自身の虚しさがあって、けれども反ってそれにつれて、駒子の生きようとしている命が裸の肌のように触れて来もするのだった。彼は駒子を哀れみながら、自らを哀れんだ。


● 葉子はあの射すように美しい目で島村をちらっと見た。島村はなにか狼狽した。
  


● 駒子のすべてが島村に通じて来るのに、島村のなにも駒子には通じていそうにない。駒子が虚しい壁に突き当たる木霊に似た音を、島村は自分の胸の底に雪が降り積むように聞いた。このような島村のわがままはいつまでも続けられるものではなかった。


● 最終シーン

駒子は芸者の長い裾をひいてよろけた。葉子を胸に抱えて戻ろうとした。その必死に踏ん張った顔の下に、葉子の昇天しそうにうつろな顔が垂れていた。(駒子は自分の犠牲か刑罰かを抱いているように見えた。)…


「この子、気がちがうわ。気がちがうわ。」

そう言う声が物狂わしい駒子に島村は近づこうとして、葉子を駒子から抱きとろうとする男達に押されてよろめいた。踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村の中へ流れ落ちるようであった。

http://home.b00.itscom.net/moonlit/book/novels/yukiguni.htm


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サイコパスだった川端康成のロリコン、ペドフィリア、フェティシズムについては

テレビドラマ 早勢美里 木村拓哉『伊豆の踊子』TX 1993年
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